日本が鎖国していた1700年代と今を比べてみてください。どれだけ、人々は新しいことを学んだか。しかし鎖国を解いた今でも、日本には閉鎖的な部分があります。それは私が日本で日系アメリカ人として過ごしていた時に感じました。とにかく私は当時日本で「日本人」として受け入れられたことは一度もありませんでした。
ここまで閉鎖的であると、これは問題です。日本社会の中で「異質な存在」であれば、なかなか受け入れてもらえず、成功は難しいからです。
第二次世界大戦直後の経済的に豊かな日本は、インクルーシビティについてあまり考えなくてもよかったかもしれません。
しかし、経済不況の今、世界は日本に目を向けなくなってきました。今後、不況から脱するためにも、日本はこれまででいちばんインクルーシビティが重要となってきたのです。
もちろん日本だけではありません。世界中がインクルーシビティを必要としています。ドナルド・トランプ氏を大統領とするアメリカ、EU離脱を決めたイギリス、そしてヨーロッパ全体でも排他的、いずれでも閉鎖的な現象が起きています。
━━マエダさんはオバマ元大統領のファンでしたが、ドナルド・トランプが大統領になったことに対しては、どう受け止めていますか。
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ニュースをみていると、トランプを支持している人たちが様々なことに対して怒っていることに気づきました。私はこの目で彼らが何に対して怒っているのかを見たいと思いました。そこで私はホワイトハウスの人々に案内されて、炭鉱で有名なウェストバージニア州やケンタッキー州を訪問しました。
空港に降り立つと、タクシーが見当たらなかったので、ウーバーを呼びました。現れたのは、サングラスをかけた、髪の毛の長い白人男性でした。白人至上主義者かもしれないと思い込み、怖くて殺されるかと思いました。ウーバーの運転手だと名乗った彼は、私を助手席に座らせました。いよいよ命が危ないと思いましたが、彼のおしゃべりにしばらく付き合うことにしました。
「オバマが大統領になってから、8つあった炭鉱は全て閉じてしまったんだ。オバマが太陽光発電を支持したせいで、炭鉱が全て閉鎖された」
その時、2つのことを知りました。まず1つ目は、それぞれの炭鉱で働く労働者には、8つの仕事が紐付いていたことです。トラック運送、食サービス、会計などです。1人の炭鉱作業員をなくせば、8つの仕事が失なわれることになるのです。
2つ目は、この町はオバマが大統領だった前から貧しかったため、ドラッグ利用者が非常に多かったのです。そのため、炭鉱組合は全員必須のドラッグ検査を実施していました。しかし、炭鉱の閉鎖があり、組合自体がなくなると、ドラッグ利用者の数は増えます。今では生まれた赤ちゃんの2人に1人はドラッグ中毒で生まれてくるのです。
私が言いたいのは、オバマに対して怒っている人がいても、今は彼らを理解できるということです。たった2時間で大のオバマファンだった私は、彼を嫌いになりかけていました。デトロイトのアフリカ系アメリカ人であっても、炭鉱の町の白人であっても、彼らが阻害されているという感覚を、どちらの視点からも理解できたのです。
これはトランプを支持するとか、オバマを支持するとか、といったような単純な問題ではありません。そして、私はもっともっと差別に対する理解を深めなくてはいけないと気づいたのです。