いま世界中で問題になっているのが、こうした少数の観光地に許容量以上の観光客が押し寄せる「オーバーツーリズム」の問題だ。特定のエリアに人が集中することにより、その土地の観光資源も自然環境も、そして地元の人々の生活も破壊されてしまう。
こうした問題の解決に取り組んでいるのが、世界最大級のOTA(Online Travel Agency)であるブッキング・ドットコムだ。グレン・フォーゲルCEOは、オランダ アムステルダムの本社で取材に応じ、「『サステナブル・トラベル』を推し進める」とし、「旅の目的地そのものの選択肢を広げるために、さまざまな旅の目的地を開拓していく」と明言した。
その方法のひとつが、ほかの誰とも違う「特別な体験ができる宿」を発掘することだ。そこでしか味わえない特別な体験ができる宿は、それだけで人を惹きつけ、観光価値を生む。
そんなユニークな魅力のあるホテルを、オランダのアムステルダムから2軒、ブッキング・ドットコムに紹介してもらった。
「ホテルじゃないホテル」が目指すもの
ロビーの様子
まずひとつ目は、「HOTEL NOT HOTEL(ホテル・ノット・ホテル)」。「ホテルではないホテル」という名前が表しているとおり、個性的なコンセプトだ。
正面入り口。この裏手にはモスクがあり、そのアーチと同じようなデザインがホテルにも施されている(写真:松崎美和子)
このホテルは観光地が集中するアムステルダム中心地から少し離れたウエスト地区にある。観光客は少なく、現地の人には人気の静かな住宅街で「地元の人のような(Be like local)」体験ができるだろう。
画一的な部屋が並ぶ普通のホテルとは違い、大きく天井の高い倉庫のようなスペースに、さまざまな形の客室(作品)が展示されているようなイメージ。オブジェが並ぶ現代美術館のような、アトリエのような、秘密基地のような、アートな雰囲気が楽しめる。
これも客室。「木造で悪魔を追い出す」というコンセプトの「クライシスフリーゾーン」
2Fに停められているフォルクス・ワーゲンは、この宿でいちばん高額(60ユーロ)の客室
車の中はこんな感じ。意外と快適そうだ
本棚の後ろにも客室が。本棚に飾られた鏡はマジックミラーになっている
部屋数は26で、すべての部屋を違うデザイナーが製作している。新進気鋭の若手デザイナーたちにショーケースの機会を与える目的だ。部屋の前には、彼らに敬意を表して美術館や博物館でよく見る作品プレートが掲げられているのも面白い。
一歩ホテルに入るとまず目に飛び込んでくるのが、中央に鎮座するトラムだろう。マネージャーのシャローナ・カンハイさんによると、このトラムは60年代にアムステルダムの街を実際に走っていたものだそう。
人気のトラムルーム(写真:松崎美和子)
「このトラムは、公開オークションにかけられたときに、近所の人たちがお金を出し合ってホテルへのプレゼントとして買ってくれたものなんです。もちろん、このトラムも客室になっていて、宿泊することができます。人気の部屋ですよ」
階段下のスペースにも客室が。もじゃもじゃの緑がドアノブを隠し、秘密基地のよう
5年前にオープンし、いまでは非日常を体験できる宿としてSNSなどで話題に。年間の満室率は約98%を誇る。地元コミュニティからも愛され、旅行者と地元をつなぐハブの役割を担う特別なホテルだ。