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2019.12.06

【独占】ウーバーは変われるか? ひとりの幹部が始めた社内改革

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こうした批判は企業が、競合する先行他社や業務を委託する個人事業者といった“外部”を圧迫するという見立てに基づくものだ。この点は、もちろん米国でも疑問や非難を集めているが、もうひとつ、社内においてハラスメントや差別が横行するという“内部”の問題もまた、ウーバーが企業イメージを大きく落としてきた要因だった。

そんななか、ウーバーに乗り込んだボーは最初に、「社内の状況を把握すること」に取り組んだ。3月に入社してからの9カ月間、つまり18年いっぱいは、会社と従業員のデータを集めることに集中した。

多くの事業所を回り、幹部や従業員へのインタビューを重ねたという。「社風を変えるためには、まず現状を把握・計測することが欠かせないからです」と彼女は語る。

そのうえで乗り出したのは、D&Iの強化を進めることのメリット、そして進めないことのデメリットを、ウーバー社内のこれまた多くの幹部や従業員に自ら語りかけることだった。

「企業のD&Iの向上への積極性と業績との間には相関関係があり、財務だけでなくイノベーションやクリエイティビティーの面でも、D&Iに積極的な企業の方がそうでない企業を上回るという研究結果が出ていることを初めに伝えました。多様性が力になる、違うものを排除せず取り入れる企業文化が成長につながるというメッセージを繰り返したのです」

D&Iの推進にはデメリットもある

もちろん、こうしたお題目だけを唱えていたわけではない。D&Iを押し進めていくプロセスでは居心地が悪くなることもある点も伝えながら、居心地よりもパフォーマンスこそが重要だという点を協調した。

「ダイバーシティのあるチームをつくるうえでフラストレーションが起きることは覚悟してほしい。そのかわり、結果は必ずよくなる。変化を受け入れてほしい」というのが、ヤング・リーからのメッセージだった。

同じD&I担当オフィサーといっても、舞台は伝統ある保険会社からテック系ベンチャーへと変わった。既存のルールの遵守を強く求められる金融企業と、既存のルールを変えていくような存在であるテック企業とでは、“正しさ”の認識やコンプライアンス意識にも大きな差がある。

彼女の仕事のやり方は相当、変わったはずだ。ボーは次のように語る。

「確かに、創業120年で従業員の平均年齢も高い金融企業と、未熟で若い企業とでは、導入方法は変わってきます。D&Iの点で課題があるといっても、伝統に則って“今までどおり”にやってきた結果、遅れを取った企業と、若くて未熟なので取り組みが甘かった企業ではアプローチが異なるわけです。でも、社内文化を変えていくという目標は同じです」

彼女がCDIOとしてウーバーの変革に取り組み始めて2年弱。ウーバーに関するニュース、それもよくないニュースは引き続き出ている。19年にIPO(新規株式公開)を果たしたものの株価は冴えないし、新しいニュースを追加しておくなら、11月5日に発表された7-9月期決算は6四半期連続の赤字となった。


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11月25日にはロンドン交通局がウーバーに対し、この日で切れる営業免許を更新しないと発表した。背景にはドライバーのなりすまし問題といった安全面での懸念があるとされる。

だが、以前のように社内のスキャンダルが騒がれることはめっきり減った。変化は起き始めている。今後注目すべきは、「結果は必ずよくなる」という彼女の約束の結果だ。

ウーバーが、既存の社会を変えることができるゲーム・チェンジャー、あるいはルール・メイカーになれるかどうかは、そこにかかっている。

文=岡田浩之 写真=Shutterstock

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