アマゾン ジャパン立ち上げメンバーの一人である筆者が、日本経営合理化協会主催の「シアトルイノベーションツアー」団長としてこの地を訪れたのは、令和元年を迎えた6月のことだった。
第1回「専用機で運ばれるアマゾン プライム会員向け貨物」から始まった連載も4回目。今回は訪問4日目、シアトルで今まさに「孵化(インキュベート)」せんとする、あるいは孵化したばかりのスタートアップ企業数社を巡ってのレポートである。
シアトル訪問の3つ目の山場は、このツアーのお題でもある「イノベーションツアー」。シアトルでユニークなイノベーションの火種をおこしているスタートアップ企業を中心に訪問し、その事業内容やビジョンなどを聞くことで、参加者全員が様々な視点でイノベーティブな発想を呼び起こそうという企画である。
今回は成長ステージの違う3社を訪問し、それぞれが抱えるチャレンジを聞くことになった。
1. Roby(botで室温、照度調整などのリクエストを総務部門につなぐシステム開発)
まず1社目に訪問したのが、「Roby」という最も若いステージのスタートアップ企業だ。オフィスの空調や照明など、様々なオフィスマネージメントを、社名と同じ「Roby」というシステムで統合し、施設管理の煩雑さから解放してくれるサービスを提供している企業である。
Robyのオフィスはシアトルのダウンタウンから少し離れたワシントン大学の施設の一角にある。大学がスタートアップ企業に提供しているインキュベーション施設で、そこに入る企業のほとんどは「資金調達前のスタートアップの卵」たちだ。教室のようなホールに机が並べられ、その「島ごと」が個々の企業という、非常に開放的かつ活気あふれる空間である。
説明を請け負ってくれた創業者兼CTOのベン氏は朴訥とした技術者といった感じで、よくあるスタートアップ企業創業者のイメージからは少し遠い印象だ。誠実かつ正確にプロダクトの説明をしてくれた。
「Amazon Alexa Acceleration(アレクサを使った新ビジネスを立ち上げる企業にアマゾンが出資するプログラム)」の参加企業一覧。Robyもそのうちの1社。
彼らの提供する「Roby」は、オフィスでの生活でよく体験する「煩わしさ」を解消して社員満足度を向上させるだけでなく、総務部門の仕事量を劇的に削減するサービスだ。具体的なインターフェイスは、「アマゾンエコーへの音声入力やスラックへのテキスト入力に、システムがbot経由で対応する」というもの。
簡単なところでは室温の自動調整や照明のオンオフ、また様々な総務部門へのリクエストをチャットを通じて総務に連絡し、解決をはかる。たとえばスラックに「寒い」と入れると、botから「温度を上げます」という回答が来ると同時に、システムが温度調整をする。あるいはミーティングルームに置かれたアマゾンエコーに、「寒いから温度を上げて」と言うと、システムが対応して温度を上げる、といった具合だ。