ビジネス

2020.01.07

「アマゾン誕生の地」でユニコーンを目指す新星3社|シアトルイノベーションツアー第4回

特定疾患(糖尿病や高血圧などの成人病)の患者や、一般の人の健康維持サポートをするスマホアプリを提供する会社、Brook


3. Apptentive(カスタマーフィードバックをスマホアプリで)

最後に訪問したのは「Apptentive」。スマホアプリで顧客からのフィードバックをより簡便にかつ効果的に集め、カスタマーエンゲージメントを高めるシステムを開発している企業だ。

通常、カスタマーフィードバック収集は、クラウドベースのオンライン調査開発ソフトウェア「SurveyMonkey」などのリンクを顧客へ送り、そのリンク先へ誘導するが、同社のシステムは、各企業がすでに保有しているアプリに「埋め込む」形で提供される。企業は、「自社アプリの利用中」の顧客に質問をしてフィードバックを得るというものである。

通常のリンク経由だと96%の顧客は「サイレントカスタマー(クレームがあっても発信しない)」にしかならないといわれる。Apptentiveのサービスでは、そのサイレントカスタマーからこその意見を収集し、サービスを追求することで、新規顧客拡大や既存顧客のエンゲージメントを高められるのが強みという。

スターバックスのアプリにも

ただ、まだ初期段階なので、アプリの使い勝手の修正などに使われることが多く、運用はアプリ使用中の顧客に質問をポップアップで送ることで回答を得る、といったものに留まるらしい。

だがアプリでの実際の運用によって、アプリストア上での該当アプリにつけられた星の数が2点台から4点台に上がった例も多いという。最近ではスターバックスのアプリに埋め込む形で、米国で先行リリースされたピックアップサービス(アプリ経由でオーダーし、待ち時間なしで店で商品をピックアップできるサービス)の導入時に利用され、ユーザーエクスペリエンス改善に大きく寄与した事例もある。

「ここシアトルの『顧客を第一に思う』諸企業のすぐれた点を他地域にも広げていきたかったから」というCEOガングリー氏の創業理由が印象的だった。

会社概要を丁寧に説明する、ApptentiveのSales VP、マクナルティ氏
会社概要を丁寧に説明する、ApptentiveのSales VP、マクナルティ氏

シアトルの風土は非常にリベラルだ。万人に開放的で助力を惜しまない。シアトルに住んだ後で他の地域に行くと、その冷たさや閉鎖的な環境に気づくという。そのリベラルで開放的な風土をもっと広げる上で大切なのは「心」だ。

Apptentiveは、様々な統計的な情報を集め管理する、というよりは、「Sentimentalな」、すなわち「感情」に関する情報を集めることで、より「心に響く」サービスを構築することを大切にしていた。物質的な豊かさのみならず心の豊かさを目指す、そんな熱い想いが伝わる企業だった。

ちなみに筆者の訪問時は、VCからの資金提供も受け、シアトルダウンタウンのすばらしいオフィスに転居した直後で、さらなる成長への機運を強く感じた。近い将来、彼らのサービスを日本で体験できる日が来ることは間違いないだろう。


Brookのオフィス。ハリー・ポッターの「9と3/4番線」のごとく、住所に「1/2」が入っている

今回訪れた企業はまだまだ卵のような企業から、今まさに大きく飛び立とうとする段階の企業までさまざまだった。シアトルにひしめく同等のステージの企業群の中からこれらの会社が頭一つ抜け出し、大きく羽ばたく日が来るのを楽しみにしたいと思う。

次回はついに、シアトル発展のゆりかごともいうべき企業、マイクロソフト社と、スタートアップ企業を様々な形で支援するNPOの紹介をしたい。

編集=石井節子

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