つまりは、従来、管轄部門に電話連絡をして集中コントロールのコンソールを操作して設定温度を下げてもらったり、廊下の温度管理パネルまで歩いて行って、自ら設定温度の変更をしたりしていたのを、会議室にいながらにして、簡単に出来るようになるのだ。
ただ、単にそれなら「リモコン」と変わらない。が、Robyはデータを集積して機械学習で最適温度に調整したり、社員のスケジュール帳にアクセスして、その社員が参加する会議の開催時間にミーティングルームの電気を付けたり、消したりすることもできるのだ。
現在、空調大手ハネウェル社と協業し、新たなオフィスイノベーションを起こしているという。今後のチャレンジとしては、社内ドキュメントなどもすべて読み込むことで、社員のオフィス周りでの困ったことや質問、また社内セキュリティーの管理なども対応していくという。
導入企業では、社員から総務部門に問い合わせる「ハードル」が下がったために、リクエスト件数やアクセスは導入前の10倍以上に増えている。従来は、総務に連絡しても電話に出ない、メールにも返信がない、があたり前であきらめていた人たちが、問い合わせるようになったのだ。にも関わらず総務部門の仕事量は30%以上激減し、社員の満足度も向上、という結果が出ている。
私も、以前勤めていた会社で空調が全く意のままにならず、夏は暑くて冬は寒いといった経験を何度もしてきている。訪問時、同社の創業CEOは日本訪問中で不在だったが、もしかすると日系企業へのRoby導入や、提携関係を計画しているのかもしれない。
ちなみにこのRoby、シリコンバレーで起業したものの、ハネウェル社が在シアトルであったこと、ワシントン大学インキュベーション施設の存在や、投資家との距離などを考えてシアトルに移ったという。スタートアップ企業がシアトルを目指す「流れ」とその動機を感じる逸話だ。
2. Brook(botで健康維持サポート。スマホアプリ開発)
2社目に訪問したのは、特定疾患(糖尿病や高血圧などの成人病)の患者や、一般の人の健康維持サポートをするスマホアプリを提供する会社、「Brook」。自身が糖尿病を患った創業者が、自らの健康を維持するため、食事管理や運動管理をサポートするアプリ開発を思い立ってできた企業という。
成人病の治療には通常、医師の指導の下で食事コントロールや運動をすることが必要不可欠だが、医師も、患者1人1人にはきめ細かなサポートがなかなかできず、病状改善が遅れがちなのが現状である。
このアプリはシステム(bot)が食事の提案や運動の後押しをするなど様々なサポートをするだけでなく、なんと、管理栄養士や、健康維持サポートの資格を持った専門家が日中常に待機し、ユーザーの専門的な質問にも対応してくれる。
顧客は保険会社━━「加入者の医療費削減」を狙って導入
Bluetoothで接続できる150種類以上の健康機器、血糖値を測る機器や血圧計、様々なスマートウォッチなどと連携し、ユーザーにあった提案もできる。
登録した多くの患者が血糖値や体重のコントロールに成功し、薬の量を減らした実績もある。個人契約も然りだが、実は主に医療保険会社が、加入者の医療費の削減を狙って導入するケースが多いという。
米国では日本のように「国民皆保険制度」がなく、個人が各々医療保険を掛ける仕組みである。よって年々高騰する医療費に、保険会社もその支出を押さえようと躍起だ。
当然、高騰する医療費は保険料にも反映されるので、受けられる医療の質に所得差が大きく影響する。そういった環境下で、健康を増進し医療費の支出を減らすアプリには大きなニーズがある。
ベンチャーキャピタリストからの資金提供も受け、スタートアップの次のステージに進み始めている。今後、高齢者が爆発的に増えるだろう日本でも同様のニーズはあるから、こういったアプリ導入による医療費削減は、国民健康保険だけでなく健康保険組合にとっても有益だろう。Brookが向かう次の市場は、日本かもしれない。