完璧さより「心地よさ」 世界がラブコールを送るデザインスクールの正体

CIIDの共同創業者でCEOのシモーナ・マスキ

「デザイン思考」「デザイン経営」「デザインリーダーシップ」──。ビジネスにおいて、デザインの力に多くを託し、新たな事業やプロダクト、サービスの可能性を追求する流れが加速している。

名だたる大企業も例外ではない。デザインファームやコンサル会社の手を借りながら、社員たちのクリエイティビティを引き出そうと奮起している。そんな中、トヨタ、ボルボ、レゴ、マイクロソフトといったグローバル企業のみならず、国連までもがパートナーシップを結ぶ教育機関がある。デンマーク・コペンハーゲンの「CIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)」だ。

彼らが専門とする「インタラクションデザイン」とは一般的に、ユーザーにとって使いやすく利便性の高いプロダクトやサービスを設計することだが、CIIDがとりわけ強みにしているのは、SDGsや社会課題など、困難な問題解決にデザインやクリエイティブの力を活用することだ。

「民間の企業から、社会的意義にフォーカスを当てすぎなのでは? と疑問を投げかけられることもあります。けれどもSDGsの達成は、世界全体で取り組むべき課題でもあります。複雑を極め、どこか単一の企業が17項目すべてを達成することは到底ありえない。

つまり、逆説的ではありますが、そこに大きなマーケットがあるということ。CIIDの活動は単に人道的なチャリティを目的としただけのものではありません。企業にとっても大きなビジネスチャンスなのです。財務的な成功と社会的なインパクトを両立させるのは、一つの戦略。多くの企業にとって、持続可能なビジネスを構築するチャンスなのです」

CIIDの共同創業者でCEOのシモーナ・マスキはそう語る。

改めて「一人ひとり」に向き合うことが大切

CIIDの特徴は、教育機関だけではなく、調査機関とインキュベーション機関を擁し、アイデアを社会実装するためのエコシステムが構築されていることだ。生徒たちはインタラクションデザインやサービスデザインを学び、生み出したアイデアを検証し、資本的なバックアップも得られるようなサポート体制が整っている。

「コ・クリエイション(共創)」と「プロトタイピング」をキーワードに、掲げるのは徹底した現場主義だ。マーケティングにおいてペルソナやターゲット層を設定するのは定石だが、CIIDでは「エスノグラフィックリサーチ」を応用。

生活者との対話から得られたインサイトをもとに、将来的な可能性を探りながら新しいアイデアを生み出し、プロトタイピングによってアイデアを改善しながら、なるべく早い段階でサービスやプロダクトを市場展開のフェーズへとコマを進める。そのため、R&D(研究開発)にかかる時間やコストを大幅に圧縮し、より早くイノベーションにたどり着けるのだという。

「私たちは、事業開発の早い段階からユーザーやカスタマーを介在させ、生活の現場からインサイトを得ることを重視します。『人』の視点をはじめから入れるのです。そしてアイデアが具体化すれば、インキュベーションのプロセスに乗せ、すばやくプロダクトやサービスを発表し、ユーザーから反応を得られるようにします。アイデアをアイデアとして留まらせるのではなく、実際のサービスにつなげることが重要なのです」
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文=大矢幸世 写真=林孝典

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