完璧さより「心地よさ」 世界がラブコールを送るデザインスクールの正体

CIIDの共同創業者でCEOのシモーナ・マスキ


「SDGsの項目には、貧困問題の根絶や質の高い教育、働きがいと経済成長を維持しながら、海や陸上の豊かさを守るなど、一見相反するものがあります。ですから、企業は財務的な成長と社会への影響を分けて考えるのではなく、同一の枠組みの中で考え、バランスを取らなければならないのです。そういった意味では、公的私的問わず、企業や教育機関、医療機関などあらゆる組織がSDGsに対して具体的なアクションを取るべきです。そして、日本企業はもっと重要な役割を果たせるはずだと思います」

「心地よい」から、サステナビリティを選ぶ

だが、果たして日本において、現実としてどれほどSDGsに関心を寄せている人がいるだろうか。

失われた20年が30年となり、目先の成果や生活に追われる中、「できる限り売って、利益を確保できればいい」と考える経営者や、「1円でも安く買えればいい」と考える消費者もまだまだ大多数いるのではないだろうか。そんな問いかけに、マスキはこう答える。

「私自身、この30年ほどデザイン領域からイノベーションを考えていますが、日本の人々を見る限り、世界の流れやさまざまな物事に関心があり、意欲的に取り組む方ばかりです。『やる』と決めたら、それを絶対に実行するのが、日本の良さなのだと思います。ただ、確かにこれまでのビジョンを、SDGsの観点からアップデートする必要があるかもしれません。そのためには学習し、マインドセットを行ない、それぞれがどんな役割を果たせるのか、戦略を考えることが重要です」

その契機として、CIIDは2020年2月に日本初となるウィンタースクールの開催を予定している。参加者は5日間のワークショップを通じて、インタラクションデザインやサービスデザイン、プロトタイピングを学び、実践的にSDGsに沿った課題解決に取り組むこととなる。



マスキは、SDGsを「会社が取るべき最良の選択であり、もっとも戦略的な機会」だと語る。特にミレニアル世代やZ世代の多くが、プロダクトやサービスはもちろんのこと、自ら働く会社においても、倫理規範や価値観、透明性や公平性を見極めたうえで「時間や金銭を費やす価値のあるものかどうか」と考え、選択する。

もはや企業は、SDGsに真剣に取り組まなければ、他の企業やブランドに顧客を取られてしまうと考えるべきなのだ。

マスキ曰く、インタラクションデザインには「振る舞いを変える」力があるという。その一例として示したのが、CIIDのあるコペンハーゲン市内に設置された、自転車でゲートを通過すると、どれくらいCO2削減に貢献したのか、デジタルスケールで表示する交通標識。また、サイクリングロードの脇に設置された、「ポイ捨てしやすいゴミ箱」だ。

「政治家が完璧な条例を作って、それがどんなに正しいことであっても、人々が『社会に貢献している』と感じられなければ、その振る舞いを続けることは難しいのではないでしょうか。成果が目に見えて、しかもそれが楽しいものなら、人々は積極的に関与しようとするはず。今、多くの若者がサステナビリティや倫理性を求めるのは、それが『心地よい』から、選ぶのです」

テクノロジーによるイノベーションから、生態系中心のイノベーションへ。見せかけの完璧さよりも、無理のない心地よさを。世界が大きな変化を迎える中で、優れたアイデアをいかに社会実装し、経済的持続性を実現させるか。縮小する国内市場に活路を見いだすとするなら、市井の人の「振る舞い」に目を凝らすことからはじめるべきなのかもしれない。

文=大矢幸世 写真=林孝典

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