カサの主人は「話しかけてくる奴には気をつけろ」と言う。それもまた事実であり、ガイドを引き受けて後から金銭を要求する輩もいる。だが、話しかけてくる相手に対応しているうちに、相手もまたこちらを見極めていることに気づく。
「私はあなたに興味がある、あなたはどう?」
毎日惰性で顔を合わせる相手が多い日本では、こういった気持ちを感じることも、感じさせることも減った。自己保身の結果でもあるが、他方で多くの出会いを逃していたのかもしれない。
テスト3:交渉術の基本とは何か
「観光客=金づる」という概念は、およそどこの国にも存在する。キューバも例外ではなく、特にタクシーとの料金交渉は厄介だ。基本的にメーターはなく、ハバナ市内なら交渉は相場より上の金額からスタートすることが多い。
交渉の成功率を上げる武器はオーバーアクションだ。「高いね!」「それはダメ!」と明るく返すうちに、運転手が根負けすることもあれば、交渉の様子を見ていたタクシーがすっと近づいて来ることもある。
「あんたおもしろいね。その料金で乗せてやるよ」
旅の資金が豊富なら、新品同様のアメ車を貸し切ってもいい。オープンカーで巡るハバナ市内は実に美しい。だが一方で、革命前に米国人が持ち込み、いまやキューバ名物となったオンボロのアメ車も魅力的に見える。また、革命後に輸入された旧ソ連の車も多く、車好きなら乗り心地を試してみたくなるだろう。
シボレーなどのアメ車のほか、旧ソ連車のラダも走っている
これらに乗るには白タクを捕まえるしかない。腹をくくって乗り込めば、燃費の悪さと高価なガソリンに対する愚痴トーク、車内に流れる現地の流行曲、勧められるキューバ煙草が、旅の気分を大いに盛り上げてくれるだろう。ただし、白タクの利用はガイドブックや公的機関がまったくオススメしていないことは事前にご留意を。
いずれにせよ、交渉は過程が重要だ。「俺たちアミーゴ(友人)だろ?」的な勢いと、明るくて気の良いキャラクターは必須。不満げにブツブツと文句を唱えていては、おそらくまるで成功しない。「サービスは金で買う」という常識を捨てれば、オープンハートこそ最高の待遇を享受する近道と悟るだろう。
テスト4:葉巻で学び直す「粋」の定義
葉巻はキューバを代表する輸出品であり、高級ホテルの専門店には圧倒されんばかりの種類と数が並んでいる。街中の正規販売店ならぼったくり被害もなく、フィデル・カストロが愛した「コイーバ」などが日本の半額程度で買えてしまう。
まさに葉巻愛好家の天国だが、ひとつだけ見事に破壊されるものがある。それは、葉巻に対する高尚なイメージだ。日本で感じる敷居の高さは、本来の葉巻が持つ世界観と一致しているのか。野営地で「モンテクリスト」をふかしていたチェ・ゲバラにしても、別に気取りたかったわけではないだろう。
富裕層がサロンで仰々しくくゆらす葉巻と、酸いも甘いも知る老人がハバナの街角で日常的にくゆらす葉巻。果たして本当の「粋」はどちらか。「粋」の定義が良い意味で覆される瞬間もキューバならではと言える。