ビジネス

2019.12.08

シニアが「役職定年」を乗り越えるためにはイノベーターシップが必要だ

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全くといっていいほど経営リソースのないとてつもない逆境のなかで、日本酒ビジネスのエコシステムを変えるほどのイノベーションを起こし、ついに獺祭はグローバルブランドに育った。

そこで発揮された桜井氏のイノベーターシップの真骨頂、それは「しがらみ」の打破だった。桜井氏の挑戦したフィールドである日本酒の醸造と販売は、日本の伝統産業であるがゆえに、歴史に積み重ねられた「しがらみ」の塊だったのだ。

日本酒の原料であるコメづくりでは、農業のムラ社会、横並びの文化、農協依存体質がある。製造段階では、季節労働の杜氏制度があり、生産は当時の曖昧な勘頼みで、しかも冬にしか生産できない。流通や販売面でも地元の酒販店との付き合いという縛りがある。

消費者側にも「日本酒とはこうあるべし」という理由のない価値観があって、新しい味わいを受け付けない。過去の技術水準で決まっていた、味わいとは無関係な古い酒税や等級認定の枠組みもある。

日本を代表する商品がゆえに、過去を引きずったさまざまな「しがらみ」があり、それらすべてが相俟って、日本酒の低迷を招き、普通の人にその素晴らしさが伝わらず、グローバルな商品にもなれずにきてしまったのだ。そうした業界構造に立ち向かわねば、旭酒造は生き残れなかった。

桜井社長はイノベーターシップを発揮して、そういったしがらみをひとつずつ打破していった。日本酒をとりまく現実を転換し、おいしい日本酒をだれもが気軽に飲める明るい未来を創ったのだ。

このように、日本には、いや皆さんの身の回りにも、しがらみに囚われた慣習が無数に存在しているのではないだろうか。最近流行りの忖度もその一種だ。

こうした身近なしがらみを打破するだけでイノベーションは生まれる。しかし現実から目を背け、しがらみに取り込まれてしまう人がほとんどだ。全く新しいものを生み出すシリコンバレーもいいが、日本の長く豊かな歴史をレバレッジすることで、実は日本にはイノベーションの宝庫が眠っているはずだ。

その扉を開けるのがイノベーターシップの大きな一面であり、それは歴史を知っているシニアに向いているはずなのだ。中高年が「知の再武装」を施し、再生して、イノベーターシップの原動力となれば、「役職定年」などという、無意味な制度も吹き飛んでしまうはずだ。

連載:100年人生のライフシフトとリーダーシップ
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文=徳岡晃一郎

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