ビジネス

2019.12.03

デル テクノロジーズが2030年に向けて表明した「論語と算盤」 

マイケル・デル氏の背景には「1─for─1 recycling」などの社会的課題の解決策が並ぶ


デル テクノロジーズもまた、多様な事業を展開しているなかで、さまざまなプロダクトを生み出している企業だ。社会的責任に対する説明は避けられない。同社は創業以来リサイクルについては取り組んできたと話し、2017年以降は海に流出するプラスチックを回収してリサイクル、パッケージの材料として再利用する取り組みなど、その活動の範囲を拡大している。今回はあらめてその取り組みを強調する場となった(なお、海洋プラスチックごみの問題は、デル テクノロジーズに限らず、コカ・コーラやアディダス、デル テクノロジーズの競合であるHPなども積極的だ)。

こうしたリサイクルでは、課題は大きく2つある。1つは素材の問題。プラスチックを何度もリサイクルしていけば劣化していく。これをどう防ぐか。もう1つは購入者がその企業に商品を戻すかどうか。日本でも、携帯電話・PHSのリサイクルの取り組み状況は決して良好とはいえない(※1)。自分のプライバシーが残った端末を、事業者に返すことをリスクと感じる人も多いのだ。

1つ目の問題について、デル テクノロジーズはいままさに取り組んでいる課題だと話した。2つ目の問題は、法人向けPCで従来から提供してきた「PC as a Service」によって回収率は増えるかもしれない。これは大企業から小規模企業まで、シートごとの均一月額料金で、PC本体、ソフトウェア、サービスを提供する仕組みだ。PCなどのハードも、こうしたサブスクリプション型で管理していけば、リサイクル回収もしやすくなる。

ファイナンスの視点でも社会的責任が

今回のカンファレンスはプレスだけでなく、各国からアナリストも呼ばれている。デル テクノロジーズは、2018年12月下旬にニューヨーク証券取引所に再上場したが、株価は想定株価の79.77ドルを下回った状態で推移しており、市場に対するアピールは必要な状況だ。いまや企業は新製品や新サービスをただ提供するだけでは市場で評価されづらい。会社として、製品やサービスに対して関わる社会的課題について解決策の提示も求められる。

ファイナンスの視点でも、企業の社会的責任の果たし方は重要視されている。純粋に金銭的リターンを求める投資家だけでなく、社会的価値の実現に意義を見出す投資家も増えた。短期ではなく中長期目線の彼らにアピールし、共に歩むことができればデル テクノロジーズが目指す10年先の目標は、より現実味を帯びてくる。だからこそ、「Dell Technologies Summit」もこうした課題について多くの時間を割いたのだろう。

企業の社会的責任については、2021年にNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公で、日本の新紙幣の顔にもなる渋沢栄一のおかげで、私たち日本人には理解しやすいものとなっているかもしれない。渋沢栄一は、ピーター・ドラッカーの『マネジメント』でも、「経営の『社会的責任』について論じた歴史人物の中で、かの偉大な明治を築いた偉大な人物の一人である渋沢栄一の右に出るものを知らない」と書かれるほど、企業の社会的責任に関しては先駆者だ。渋沢は、企業の社会的責任と利潤追求は経営の両輪であるとし、その2つを「論語と算盤」と名付け、同名の著書も著した。

企業である以上、利潤を追求するのはもちろんだが、そこに社会的な責任が伴うことを考えていくことは、現代社会において、実は旬のテーマといえる。米大手IT企業であるデル テクノロジーズが、このタイミングで、2030年に向けた自社のゴール(いわば彼らにとってのSDGs)を社内外にカンファレンスという形で、あらためて表明したのはまさに象徴的な出来事とも言える。果たして、渋沢栄一を祖とする、日本企業はどうするのだろうか。

※1 一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会の「平成30年度 携帯電話・PHSにおけるリサイクルの取り組み状況について」によると、本体の回収台数は前年度実績よりも12%減少とのこと。

文・写真=中村祐介

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