ビジネス

2019.12.02

「メンタルケア」をダイエットと同じ感覚に。元アガリ症の起業家が挑む、新たな文化の形成

(一番左)emol代表取締役の千頭沙織


そんな思いから、メンタルトレーニングサービスを手がけることを決意。とはいえ、いきなり現在の事業に行き着いたわけではない。千頭はメンタル系のサービスの需要があるのか確認するため、まずは“自分”をターゲットにし、感情日記アプリ「emol」をiOS限定で2018年4月にリリース。ユーザーの反応を探ることにした。

「人同士のコミュニケーションに疲れた現代の人が、AIになら素直な気持ちを話せるのではないかいか。そう思い、 AIとチャットで会話をしながら自身の感情と向き合い、感情コントロールに役立ててもらうことを目的にアプリを開発しました」

実際、アプリをリリースしてみると、「ロク(AIの名前)と話すことですごく癒されます」や「イライラした気持ちを吐き出しているうちに感情が落ち着いた」といったレビューがいくつも届いた。

「デジタルの時代だからこそ、人が介さないメリットを生かして、メンタル面でも人の役に立てることがあるんだ」と感じた千頭は、自信が辛い経験をしてきたからこそ、ユーザーに寄り添えるものが作れるはず、作らなくてはいけないと感じ、人のメンタルを向上できるサービスを本気で作り上げていくべく、emolを2019年3月に創業した。

スラックでの会話データからメンタル状態を診断

今回、リリースされた「emol work」は、エンプロイー・ウェルビーイングを実現するメンタル向上プログラムを提供するサービス。

仕事上でのメンタル課題に特化し、アメリカ心理学会会長が提唱する「ポジティブ心理学」を用いて、組織のエンゲージメントを高めることを目的としているという。千頭によれば、同サービスの特徴は大きく3つあるとのこと。

1つめの特徴が導入企業の従業員が、アプリでメンタルトレーニングを行える点だ。聴いて鍛える音声コンテンツ(瞑想・マインドフルネス、リラックス音など)、読んで鍛える記事コンテンツ(ストレスコーピング、睡眠改善、自己肯定感向上など)、見て鍛える動画コンテンツ(コミュニケーション、リラックス動画など)、書いて鍛える記述型コンテンツ(認知行動療法、思考整理など)という4タイプのコンテンツでメンタルトレーニングができる。

現時点では40種類のトレーニングしかないが、今後、100個、200個、300個とコンテンツを増やしていく予定だという。



「現在実装済みのトレーニングは幅広い層に対応した誰でも使えるものが多いですが、今後は社内での役職によってもパーソナライズされる、より深掘りしたトレーニングを作成していきたいと考えています」

また、2つめの特徴が10秒マインドフルネスによる感情記録やアンケート、スラック連携だ。千頭によれば、スラック上での交流情報を読み取り、会話データに基づいて関係性を判断するなど、従業員のメンタル状態を評価するとのこと。

具体的にはプライベートではないチャンネルから従業員間の会話を取得。独自のアルゴリズムで自然言語解析を行う。分解された単語などから、会話のポジティブ度や会話の雑談度などを計測することができるという。



実際、分析されたメンタル状態から従業員一人一人に合わせてパーソナライズされたメンタルトレーニングプログラムが組まれる。

そして3つめの特徴がアメリカの心理学に基づいてサービスが設計されている点だ。

「メンタル状態の診断は、DSM-5とポジティブ心理学の評価基準PERMAに基づき評価しています。この二つを応用することで、メンタル状態が不調な従業員と好調な従業員の両方にアプローチできるサービスを作り上げました」

DSM-5とは、米国精神科医師や米国の臨床心理士が参考にする精神病の診断書。日本でもっとも多いと言われる、うつ、パニック障害、不安障害、躁鬱障害の傾向がある従業員を感情記録のデータから導き出すことができる。
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文=新國翔大

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