シェアエコ研究の第一人者が語る「日本がDXで先を行くのに必要なこと」

アルン教授 / Getty Images

「日本は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を強力に推進しなければなりません」

至極真っ当で、ややもすると新鮮味にかける言葉として響くかもしれない。だが、これが世界の大家の口説だとしたらどうだろう。

そう述べたのは、アルン・スンドララジャン氏。ニューヨーク大学経営大学院で、情報科学・オペレーション科学・経営科学を教導する教授である。20年近くにわたり、ビジネスや社会のデジタル革新に関する専門家として、米国議会やホワイトハウスなどの政府機関に対して証言や情報提供をしてきた。

その彼を世界的に有名にせしめたのは、新たなコンセプトとして世界に旋風を巻き起こした「シェアリングエコノミー」研究の第一人者としてである。来日したその権威に「日本への提言」を伺った。

「ビジネスの成功を目指すことを使命とする大企業は、往々にしてフリンジ・テクノロジー(非主流テクノロジー)を軽視し、市場性に重きを置くメインストリーム・テクノロジーを重視してしまう傾向があるんです」と、アルン教授は言う。

確かに、話題となった経済産業省作成の「2025年の崖」レポートでは、既存のITシステムを保守し続けることの大きな弊害を説いている。2025年という時期に重なるレガシーシステムの老朽化や、閉鎖的システムによる複雑化、そして、保守担当の技術者が退職し、システムはブラックボックス化する。

この古きシステムが温存されることによって、2025年以降、毎年最大12兆円もの経済損失が生じる可能性があるという。だから、DXが必要なのである。

DXのためのキーサクセスファクターとして教授が指摘する「フリンジ・テクノロジー」とは何なのか。

その最たる例を、教授は2003年に市場を揺るがした「ソニー・ショック」に求めている。同年4月にソニーが連結決算を発表、1〜3月期で大幅な最終赤字に陥った。それだけではない。翌年度の業績も大幅減益との見通しが同時に発表されると、ブルーチップと呼ばれ、日本経済の象徴でもあったブランドが一斉に売り浴びせられた。

一方、その4日後。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏はサンフランシスコのとある会場の壇上にいた。iTunes Music Storeのローンチイベントである。そこで、ジョブズ氏は次のように述べ、声高らかに革命の旗を掲げたのだった。

「20年前、ソニーは革命を起こし、音楽を持ち運べるようにした。このデジタル時代、iPodが同じ革命を起こしている」

アルン教授はこう説く。「当時、ソニーミュージックのエンジニアはコンピュータシステムを駆使したiTunesの将来性を見抜き、開発の提案をマネジメント層にしたんです。しかし、小規模なマーケットしか期待できないということで、その申し出はあっさり無視されました」。
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文=谷本有香

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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