サッカーの神様は「努力」を見ている
ゴールキーパーはサッカーで最も過酷なポジションと言えるかもしれない。守護神と呼ばれるように、試合では最後の砦として、自らの背後に広がる横幅7.32m、高さ2.44mのゴールマウスを、失点さえしなければチームが負けることはない、という責任感とともに守り続ける。
フィールドプレーヤーとは異なり、試合で先発できるのはひとりだけ。戦術的な目的で、あるいは試合の流れを変えるという目的で途中交代することはない。リザーブのキーパーが途中から投入されるのは、先発したキーパーが負傷した場合か、あるいは退場処分を受けた場合に限られる。
レギュラーとリザーブの間には目に見えない、しかもなかなか埋めることのできない格差が存在する。首脳陣の間で一度定められた序列をシーズン中で覆す作業は、決して容易ではない。ゆえにセカンドキーパーが脚光を浴びる機会はまず訪れない。
それでもセカンドキーパーは、不断の努力を怠ることもまた絶対に許されない。いつ訪れるかわからない出場機会に備えて心技体を磨き上げ、コンディションを完璧に整えておかなければならないからだ。チームが直面した緊急事態で出番を命じられ、周囲を満足させられなければ瞬時に信頼を失うだろう。
川崎フロンターレに所属する新井章太の2019シーズンを振り返れば、9月の声を聞くまで、ゴールマウスを守った公式戦はわずか2試合にとどまっていた。いずれも天皇杯全日本サッカー選手権で、明治大学との2回戦、J2のファジアーノ岡山との3回戦で先発フル出場して勝利に貢献した。
グループHの3位で敗退したAFCチャンピオンズリーグ(ACL)、そして史上2チーム目の3連覇を目指すJ1リーグ戦は、すべてベンチで戦況を見つめてきた。韓国代表としてワールドカップの舞台にも立った名手、チョン・ソンリョンの後塵を拝する状況を覆せないまま時間が経過していた。
「ずっとセカンドキーパーで、試合に出られない時期も長く続きましたけど、毎日毎日、本当にサッカーのことだけを考えていれば、自分が上に行くんだという気持ちを常にもち続けていれば、サッカーの神様は必ず見てくれているんだと思っていました」
新井の心境を表すなら「雌伏して時の至るを待つ」という故事がそうだろう。実力を養いながら、活躍できる機会を待つ──。