それは一見、称賛すべき取り組みに思えるけれど、そこに暗黙の、あるいは露骨と言ってもいいかもしれない偏見が潜んでいるのは見逃せない。これらの分野では、女の子は男の子よりも弱く、楽しめず、理解も浅い。そんな偏見だ。だから、女の子には能力をしっかり伸ばせるように安全な環境を与えよう。そうして、青年期の終わりを迎えるころまでには、STEM分野に、その「強者」である男の子と一緒に入っていけるようにしよう、なとど考えられてしまっている。
STEM分野の男女格差は縮小しつつあるとはいえ、まだ大きいのは確かだ。だが、男性よりも十分に代表されていない女性の周りに、また別の壁を築くというのは、果たしてその格差を是正するための最善の方法と言えるだろうか。
玩具メーカーのマテルが「ティーン・トーク・バービー」を発売したのは、このフレーズが登場するはるか前、1992年のことだ。わたしたちの多くにとっては、まだそんなに昔の話ではないだろう。このバービー人形のシリーズは、10歳前後のプレティーン市場を狙ったもので、ボタンを押すと4種類のせりふのどれかをランダムに話すようにプログラムされていた。
「モールで会おうね!」「誰か気になる子いる?」「買い物って大好き。あなたもよね?」といった、ありふれたせりふだ。その4種類は人形によってバリエーションがあったため、せりふは全部で200種類以上に上ったが、そのひとつにこういうものがあった。「数学の授業ってきついな!」。バービーのせりふは今聞くとほとんどどれもひどく性差別的に聞こえるけれど、この数学についてのせりふは、気になる人(その相手は明らかに女の子ではなく男の子と想定されている)や、買い物に関するものよりも物議を醸すことになった。当時のテレビコマーシャルは数学のせりふこそ使っていないものの、いくつものレベルでジェンダーバイアスに満ちたものになっている。
2010年に発表されたある研究では、複数の国の生徒や学生(小学生から大学生まで)計120万人超の数学能力を評価した研究論文240本余りを調べている。それによると、数学の到達度は男女間で基本的に同じだった半面、数学に対する見方の違いは、女子よりも男子に著しく有利なものになっていた。論文の著者たちは、その原因を主に、親や教員の側のステレオタイプに根ざした偏見に見いだしている。