「女子のSTEM教育」に潜む偏見

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そうした偏見は、早ければ子どもが5〜6歳の頃から始まり、数学は女の子にとっては難しい、男の子にとっては易しいというふうに、漠然と、あるいは明白に思われるようになる。この研究では触れられていないけれど、男の子の方も、きっと似たような偏見から、読書(リーディング)や英語が苦手だと思われているに違いない。

事実、今でも「読書が苦手な子ども向け」という売り文句は、実質的に男の子をターゲットにしていることが多いし、そこで推奨される本はたいてい、ステレオタイプ化された「男の子向け」の本になっている。まさに暗黙の偏見。つまり、偏見は女の子と男の子の両方に向けられていて、どちらも望ましくないものだ。

数学のパフォーマンスの男女比較では、最近は達成度や成績を調べるだけでなく、脳の働きを見ることも可能になっている。最近、カーネギーメロン大学で行われた実験では、数学の活動に関して、男女の間に脳の機能レベルで違いが存在するのかどうかを調べている。脳の活動をリアルタイムに把握できるfMRI(機能的磁気共鳴画像測定)を用いたもので、男女半々の3〜10歳の子ども100人余りが参加した。

実験ではまず、子どもたちに数学教育用のビデオを見てもらった。結果はというと、脳の情報処理に関して男女間に違いはみられなかった。子どもたちにはさらに、標準的な数学テストも受けてもらったが、その成績も男女間に違いはなかった。従って研究チームは、数学に関する男女間の違いは、生まれつきの能力や知覚ではなく、社会的な要因が生み出していると結論づけている。

それでも問題は残っている。差別されている集団を特定の分野にもっと触れさせると、生産性や自信が高まるように働くのか、それとも単に差別が助長されるだけなのか、という問題だ。米最高裁判所長官のジョン・ロバーツは07年、「人種に基づく差別をなくす方法は、人種に基づいて区別することをやめることだ」という意見を書いている。これついては、極めて人種差別的だとみる人もいた。

十分に代表されていないマイノリティーは、教育や仕事の面で緊急の対応を必要としており、そのためにさまざまな支援制度を整えねばならないはずだからだ。一方で、ロバーツの見解を賢明だと考える人もいた。区別するということは、良い意味であっても、それ自体、やはり人種差別的だからだ。彼の意見は、はるかに大きな問題について過度に単純化しているきらいがあるものの、性差別にも似たような偏見が認められる。

いつか、「女の子にSTEMを」に代わって、「STEMクラブ」という言葉が使われるようになるかもしれない。そうなれば、ここで重要なのは性別ではなく、STEMの方なのだということが明確になるだろう。

編集=上田裕資

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