ビジネス

2019.12.10

日本のベンチャーで働くスウェーデン人が企業の海外進出を成功させたワケ

David Bergendahl氏


倫理的観点からの事業検証が海外では重要


カンファレンス(IoT Asia)での登壇の様子

その後、別の日本のベンチャー企業を経て、2017年9月にまだ創業して半年だったABEJA Singaporeの社員第一号としてジョインしました。

ここでの試行錯誤も数えきれません。シンガポールのメンバーが日本の事業に持っていかれたことで現地のチームが空中分解しかけたり、他のメンバーと毎日言い争いをしたり、大切なメンバーが立て続けに辞めたり、なかなかつらいこともありました。しかし、そこを共に潜り抜けてきたメンバーとは、いま強いつながりが生まれていると実感しています。

現在、ABEJAでは、グローバル視点のカルチャーを醸成するために、日本とシンガポールで働くメンバーを同時に招き、「Global Communication Meeting」を開催しています。文化の違いなどから対立しがちな問題を解決する場として続けています。そして、ここでの発案がきっかけで生まれたのが、ABEJAの倫理委員会「Ethical Approach to AI」(EAA)です。

他の企業との協業のなかで、日本では問題とされていないような点が、シンガポールでは倫理的にグレーと取られかねないことがしばしばありました。採用の履歴書の審査やローンのクレジットスコアリングに使用されるアルゴリズムなどがそうです。これらのテーマでのAI活用は進んでいますが、アルゴリズムに使用されるデータセットに、例えばですが白人男性の採用選考固有のバイアスがある場合、倫理上問題という意見があります。

このようなグレーゾーンの部分を会社としてどう判断するのか、きちんと議論するべき、そんな意見が同僚からも出て、Global Communication Meetingで話し合われました。そこで、懸念のある事案の是非について倫理的観点で討議する委員会を設立しようと提案したのです。

EAAは提案からおよそ3カ月で結成されました。日本側の担当社員が選んだEAAメンバーの候補は、最初日本人男性が大半でした。しかしそれでは特定の性別や国籍に視点が偏ると指摘したことで、結果的に多様なメンバーが集い、いまはシンガポールの事業にも好影響を及ぼしています。

こうした倫理的観点での事業検証は、日本ではさほど必要性を感じられないかもしれませんが、グローバルでは非常に重要視されます。こういった認識の違いをふまえて、EAAが機能するよう運営できたのは、とても良い経験になりました。

最後に、私の経験から導き出した、日本のスタートアップへのメッセージを送りたいと思います。海外で事業を拡大する場合、成功要因は次の3つに尽きると思います。

・現地・現物の意思決定
・文化の違いを理解しあう努力
・グローバル企業になるという本気の覚悟

3つ目は、本気で海外に出たいのか、単に興味があるだけなのかの識別が大事ですが、「単に興味がある」というフェーズでも、できることはあります。

例えば、かつての私がその恩恵を受けたように、海外出身のインターンを採用してみることです。社員との相性を知る良い機会になります。働く時間は日本人と比べて短いですが、時間あたりのアウトプットは高くなると思います。

こうして海外に対して知る機会を設けて、自分たちの本気度を確かめていき、本気でチャレンジしたいとなれば、挑戦できる仲間はたくさんいると思います。私の経験談から、海外で成功する日本のベンチャーが1つでも増えることを願っています。
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文=夏目 萌

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