ビジネス

2019.12.05

北欧の雄エリクソンを動かす「イノベーション別働隊」とは


Ericsson Oneの所属するEricsson本社ビル


こうした目的に向かっていくために、たとえばエンジニアとほぼ同数のデザイナーからなるメンバーでチームを構成していたり、プロジェクトの予算をR&D部門とは別会計にしていたり、本社部門から投資をしたりといった工夫がなされている。

また、スピード感を重視しており、「従来なら1年半かかるようなテーマを、Ericsson Oneでは1カ月半でカタチにする」という。

社会の中で「ラピッド・プロトタイピング」する

具体的にはどんなプロジェクトが行われているのか。いくつか事例を紹介してもらった。

たとえばArup社という建築分野のコンサルティング・ファームとの取り組みでは、アプリケーションを共同開発し、市民が端末を通して「こんな街にしていきたい」というアイデアを提供できるようになり、都市計画への市民参加を推進するような“仕組みのプロトタイピング”を行っているという。

Arup社とのアプリケーションのプロトタイプ
Arup社とのアプリケーションのプロトタイプ(Photo courtesy of Ericsson)

オンライン・ゲームの「マインクラフト」で知られるMojang社とは、ゲームの特徴を生かし、若者が街づくりに積極的に参画できるようなプロジェクトをデザインし、南アフリカのヨハネスブルグでトライアルを実施している。

また、エリクソンが有するIoT等の技術を活用して、4Kカメラとスピーカーが内蔵された手のひらサイズの“象のおもちゃ”を開発。おもちゃは画像処理、音声処理機能が備わっており、たとえば子どもが街に出かけたときに象に街の景色を見せると、象がその地域について教えてくれたり、文字を読み上げて教えてくれたりする。先端テクノロジーを生活者にいかに活用してもらえるか、社会のニーズを探索するためにつくられたという。

象のおもちゃのプロトタイプ
象のおもちゃのプロトタイプ(Photo courtesy of Ericsson)

上記以外にもさまざまなプロジェクトが走っているが、実施しているのは一定の条件をクリアしたものだ。Ericsson Oneでは、ひと月ごとに送られてくる新しいアイデアを、「社会のニーズに合致するか」「社会課題を解決できるか」「市場競争率が高すぎないか」という3つの評価基準に照らし合わせ、評価されたプロジェクトだけが実施される仕組みとなっている。

ここからビッグ・ビジネスが生まれるのはまだ先になるのだろうが、オフィスには非常に活気があり、エリクソン全社をリードする役割を果たすというメンバーの気概が伝わってきた。

Ericsson Oneは、小さな組織ならではの機動力を活かし、実験的にどんどんプロジェクトを回してみることで、そこから得た気づきを全社に還元している。こうした「社会の中でラピッド・プロトタイピングすること」に特化したラボがあることで、内外の従業員やステークホルダーがインスパイアされ、クリエイティブなカルチャーが育まれていく。そんな印象を受けた。
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文=小島一浩

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