「生きる感覚」を鈍らせた40歳サラリーマンとフィンランドの出会い

ヌークシオ国立公園の湖に浸かる彼



大量にとったキノコ

初体験のスモークサウナ。伝統的なフィンランド式サウナだ。5、6人の大人が入れるこじんまりとした小屋は、煙突のない真っ暗な空間で、静寂だけがある。時々サウナストーンに水をかけることで「ジュッ」と音がして熱い蒸気がさらに体を温め、血管が広がっていくのがわかる。

目を閉じ、じっくりその空間を味わうと、五感がかつてないほど研ぎ澄まされていくのがわかった。室温が徐々に上がっているのも肌で伝わる。汗が頬を伝って、床に落ちる。普段は気にしたことのない「音」が今はよく聞こえる。

体がほくほくと温まってきたら、今度は外に出る。目の前に広がる湖。そこに飛び込んでみる。

外の気温は8度。10月といえどもフィンランドは寒い。裸のまま、湖に体を投げ出す。体を刺すような冷たさが、気持ち良さに変わっていく。

その時、彼は言った。「まるで子供の時に海に入ったような感覚になる」と。そして、続けた。

「40歳になって水の中に潜ることなんてない。ましてや自然の湖、何がいるかもわからないところで、体を全身浸けるなんて普通は考えられないよね。でも、気持ちよかった。そして懐かしい気持ちになった。やってみないとわからないことはたくさんあるんだね」

サウナがもたらした2つのスリープ


彼がほぼ毎日利用したホテルのサウナ。クローズ時間の23時前は利用者がおらず、静かな貸し切り空間だった

個人的にサウナにどんな効果があったのかと聞くと、頭を2つの「スリープ」状態にできたことだという。

常に仕事のことを考えていることで、休日でも休憩している時でも、仕事のことが頭をよぎる。そんな状態を止めることができることができたのが1つ目のスリープ。

もう1つは文字通り、脳を休ませることができたことだ。常に働き続ける脳に休息を与える時間を強制的につくるのがサウナだった。身体が疲れているのはなんとなくわかっても、頭が疲れていることは気づきにくい。スモークサウナの静けさと湖に入った時の爽快さで、それまで頭の疲れが知らず知らずのうちに身体に張り付いていたことに気づかされた。

2つのスリープ、そして森林の中でビールを味わった彼の顔つきは、ツアーに参加したメンバーがみんな気づくほど変わっていた。
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文・写真=井土亜梨沙

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