「一流の政治家なら面白がってほしい」森達也が『i─新聞記者ドキュメント─』を語る

森達也監督


初めて対面した森監督は、静かにじっと相手の本質を見定めるような眼差しを向けながら、穏やかな口調で話し始めた。

「ドキュメンタリーにおいては、メタファーが大事。望月さんの姿を見ながらも、観る人には違うものを想起してほしい。望月さん自身が全体的な主題ではなく、ひとつの要素にすぎないのです」

映画の中では、森が、記者会見で望月が質問する姿を撮影するため、「首相官邸内の会見場に入りたい」と試みる場面がある。いろいろ手続きを踏むのだが、結局、基本的には記者クラブの加盟社の人以外は、中には入れない。森はどんな気持ちだったのだろうか。

「記者クラブの閉鎖的な部分というのは以前からもちろん知っていました。民主党政権時代に、フリーランスの立場の人がなかなか入れないのは、前時代的すぎるから間口を広げようという動きがあったけれど、またシャットアウトしたんだと思いました」

森の答えからは、半ば諦めのようなものを感じた。では、モヤモヤした気持ちはなかったのだろうか。

「もしかしたら一縷の可能性はあるかなとは思っていたけど、結局ダメでした。今回に限らず、ずっと前からモヤモヤしてきたので。記者クラブには功罪があると思う。その罪の部分は閉鎖的で、排他性が強いこと。その理由は明らかで、メディアは自分たちの既得権益を守りたいから。それは結局、政治権力に利用されているんだということを改めて感じましたけどね」



「権力は放置すれば横暴になる」


この政治家の失言はすっかり見慣れてしまった感はあるが、『i』でも彼の横暴な発言が出てくる。麻生太郎・副総理兼財務大臣だ。望月記者が質問する最中に、ニヤニヤしながらこう遮るシーンがある。

「1社1問だけじゃないの。あ~あんた、いつも官邸でよく喋ってる人ね。あまり1社が3つも4つもなんて珍しいからね。うち役所の文化じゃあまりないから。同じ質問を何回も何回もさせるのが、東京新聞の指令? 違うの。じゃ、この方の趣味だ」と麻生大臣は言い、最後に立ち去り際に、眉をひそめてこう言い放つのだ。「いい加減にしろや」と。

本作では「ジャーナリズムの地盤沈下」も描いているが、権力側もあまりに横暴になりすぎているのではないか。麻生大臣の発言は、そう思わざるを得ないシーンだった。

森は次のように指摘する。

「権力というのは、放置すれば横暴になるのは当たり前ですよ。腐敗するし、暴走する。メディアがしっかりと監視機能を果たしていないから、こんな状態になっている訳でね。それは1年2年じゃなく、10年以上こんな状態が続いているわけですから、権力側が慢心することは当然です」
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文=督あかり 写真=帆足宗洋

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