官邸記者会見で菅官房長官に粘り強くこのような質問をぶつけ、注目を浴びる東京新聞記者・望月衣塑子。ジャーナリストであれば「当然」とも言える、食い下がる彼女の姿勢が、なぜ、いまクローズアップされるのか。果たして彼女は特別であり、「異端児」なのだろうか。
その望月を追ったドキュメンタリー映画『i ─新聞記者ドキュメント─』(以下、『i』に省略)が11月15日から公開され、メディアの自主規制や、横柄な官僚の姿を切り取り、ユーモアを交えながらも私たちに社会や情報への向き合い方を問いかけている。
東京新聞社会部記者・望月衣塑子、『i -新聞記者ドキュメント-』から。(C)2019「i-新聞記者ドキュメント-」製作委員会
今年6月に公開された映画『新聞記者』(藤井道人監督)のプロデューサー河村光庸が本作も手がけた。ドラマ仕立てであった『新聞記者』は、興行収入6億円を超える作品に。それを受けた本作は、「『フィクション』を超えた衝撃の『リアル』!」というキャッチコピーがつけられている。
「爆笑コメディ」─。監督は、新作の『i ─新聞記者ドキュメント─』をこう紹介する。
その監督は、森達也だ。
オウム真理教の本質に迫った『A』(1998年)、『A2』(2001年)のほか、最近では2016年にゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした『FAKE』など話題作を世に出してきた。本作では、望月衣塑子記者の取材活動を追いながら、集団のなかで埋もれがちな私たちの「個」の存在について、究極的な問いを投げかける。
なんだかわからなかった彼女の存在
実は、筆者にとって、これほど身近な題材を描き出すドキュメンタリーは初めてだったかもしれない。私の古巣は中日新聞であり、同じ社である東京新聞の社会部にもお世話になった上司や先輩がいる。望月記者とは面識はないものの、もちろんその存在は知っていた。
正直、新聞社にいた時は、彼女をどう捉えていいかわからなかった。その名前は広く知られ、会社に彼女へのファンレターのようなメッセージが届くこともあった。地方支局時代に彼女の講演会を取材する機会があったが、私は手を挙げなかった。同じ職種であり、ましてや同じ会社である「新聞記者」を取材することに違和感があったからだ。だから、その「なんだかわからなかった存在」を映し出すドキュメンタリーには興味があった。
だが、この映画は彼女のパーソナリティを克明に描く作品ではない。望月衣塑子という記者を通して、官邸の記者会見や辺野古基地移設問題に揺れる沖縄の姿、性犯罪被害を告発した伊藤詩織、森友問題で揺れた籠池夫妻、近畿財務局のOB、加計学園問題で文科省元事務次官の前川喜平などの姿を描き、日本の社会やメディアのありようを示している。
筆者にとって興味深い、このドキュメンタリーを撮った森監督に話を聞いた。