3つの時間軸で進行する物語
さて、この3時間30分だが、スコセッシは観客の興味を繋いでいくために、巧みに作中に3つの時間軸を設定している。いまや77歳となり、熟練の境地に入ったスコセッシらしい「技」だ。
まず、冒頭、ある介護施設のなかをカメラが動いていく。たどり着く先は1人の老人。年老いた主人公のフランク・シーランだ。物語は彼の回想から始まる。これが「現在」となり、1番目の時間軸だ。
シーランの回想は1975年に飛ぶ。自分の親分筋に当たるマフィアのラッセル・バッファリーノ(ジョー・ペシ)と、彼の従兄弟の娘の結婚式に出席するため、フィラデルフィアからデトロイトへと出かけるロングドライブの3日間だ。これが2番目の時間軸となり、物語を締めくくる重要な場面へと繋がっていく。
この自動車旅行では、飛行機嫌いのバッファリーノのために、シーランが自らハンドルを握る。後部座席には、それぞれの夫人が乗り、喫煙者の彼女たちのために、道中、何度も煙草休憩が入る。それというのも、バッファリーノがカストロのキューバ革命以来、長らく禁煙しており、車中での喫煙に応じないからだ。
この車中での、喫煙をめぐる夫婦のやりとりが滑稽で、バイオレンスに満ちた作品のなかでも長閑な場面のひとつだ。他にも作中でスコセッシは度々ユーモアを交えており、3時間30分のなかで、そのあたりの匙加減も心憎い。
ドライブの途中、テキサコのガソリンスタンドを見かけたことで、今度はシーランの回想は、1975年から、マフィアのボスであるバッファリーノと出会った時代へと移る。彼らの出会いはこのガソリンスタンドからだったのだ。
食肉を運送するトラックのドライバーだったシーランは、その後、偶然の再会からバッファリーノのダーティワークを手伝うことになり、やがてチームスターの委員長であるホッファの元に送り込まれ、彼の片腕となっていく。回想のさらに回想、つまり1975年のドライブに至るまでの出来事、これが3番目の時間軸だ。
作中では、この第3の時間軸で、ホッファとマフィアの関係、そして大統領にも対抗する勢力ともなったチームスター委員長としてのホッファの闘いが描かれていく。とくにケネディ政権下の司法長官ロバート・ケネディとの確執と、その兄、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺の報を聞いたときの彼のリアクションが興味深い。
この3つの時間軸の物語を交互に折り混ぜながら、スコセッシは観客を厭きさせることなく、ホッファとその時代を描いていく。その手並みはまさに匠の技。もちろんスティーヴン・ザイリアン(「マネーボール」「ドラゴン・タトゥーの女」などの脚本を手がける)の緻密な脚本も寄与しているが、やはりそれらをテンポの良い、的確な映像で見せていく監督の演出が素晴らしい。