大浦は今年9月から、インターネットサービスを手がけるハニカム(東京都港区)と、給与計算の基幹システムを新しいものに置き換えようしている。現在は民間企業が使っているパッケージ製品を改編したシステムを使っているが、ここに大きなハードルがある。
まず、民間企業であれば、ソフトウェアに合わせて給与の仕組みを合わせることもできるが、法令でガチガチに固められた自治体ではそれができない。次に、自治体では民間企業の実績に合わせて給料表が毎年変更される。全員一律の増額であれば単純な作業ではあるが、実際は給料表全体が細かく変更され、ポジションと経験年数によって増加額が異なるのだ。
給与システムの見直しに取り組む給与支給係長 大浦富男
ハニカムと大浦は、これらの問題を乗り越えたプロトタイプでの実証実験に挑もうとしている。上手くいけば、来年度から正式導入できる算段だ。驚くべきは、神戸市のように数千人規模の給与システムを開発するには1億円以上がかかるが、それが半額以下でできそうなのだ。
ハニカムの狙いもはっきりしている。今回開発した給与計算システムは、全国の約1700の自治体で使うことができ、同社にとっての新ビジネスとなる。
「入札なし」で契約できる制度を導入
しかし、このプログラムには課題も残った。スタートアップと共同開発に成功しても、市が正式に導入するには、あらためて仕様書を作成して、公募の競争入札で契約先を選ばれなければならない。これでは、スタートアップの努力が報われないだけでなく、安いだけで使い勝手の悪いソフトを導入してしまうリスクすらある。
地方自治法には、入札によらず任意に選んだ相手方と「随意契約」できるというルールもあるが、これは金額が100万円以下に限られるのだ。
そこで神戸市は今月22日、スタートアップと共同開発したシステムなどを「入札なし」で契約できる新たな調達制度を導入した。もちろん、国内自治体では初めてだ。
地方自治法施行令に、新たに開発されたプロダクトを市長が特別に認定することで随意契約できるという規定があり、それを援用した。これで100万円を超える、数千万円のソフト開発でも随意契約ができる。これを実現するために、認定に当たっては契約が適正かどうかを外部有識者による審査会でチェックすることにした。
スタートアップとのプログラムについては、すでに今年、兵庫県内の芦屋市と姫路市が試行的に参加。関東や東北、中部、九州など複数の自治体で来年度、このような取組みを予算化しようとする動きもある。これが自治体の調達改革の兆しになるのではないだろうか。
連載:地方発イノベーションの秘訣
過去記事はこちら>>