パリのビストロのエスプリが堪能できる11区のグルメ通りの店

「ビストロ・ポール・ベール」オーナーのベルトラン・オーボワノー氏

なぜだかわからないけれど、丸2年、この店に足を運んでいなかった。しかし、私的パリのビストロリストをつくろうとすれば、自分にとってはどうしても外せない店だ。

ひさしぶりに出かけようとして、少し気が引けた。なにせ2年もご無沙汰している。その間、オーナーのベルトランとは一度だけ顔を合わせた。今年の夏前、隣にある姉妹店に顔を見せていた彼と少し言葉を交わしたものの、私も日本からのゲストと一緒に夕食を摂っていたので、どことなくお互いによそよそしかった。

この店に食事に出向くのに、友人を誘おうかと思ったけれど、ひとりでランチに行くことにした。空間に、店の空気に、気持ちを新たにして、身を浸したかった。

いつも内臓料理がメニューに


2つの番地にまたがる間口の広いビストロ・ポール・ベール

店には13時40分くらいに着いた。昼の開店と同時に入ったお客が帰り始め、空席がちらほらできる時間だ。もうすっかり秋の気配で、入り口の扉は閉まっていた。ドアノブを回して中に入ると、バーカウンターの前にたまたまベルトランがいて、Oh la la!という身振りとともに、以前と全く変わらぬ態度で迎えてくれた。私の身勝手な後ろめたさは、杞憂に過ぎなかったらしい。

1人で来たと伝えると、「あそこの席が空いたから、いますぐに用意するよ」とスタッフに指示しようとした。それを制して、お客さんが立ったばかりのカウンター脇の席に視線を投げ、「あそこでもいい?」と訊くと、「もちろん!」とベルトランが答えたそばから、それを耳にしたスタッフが片付け始めてくれた。

その席は、カウンターの陰に隠れていて、少し隔絶された場所にある。でも、私は、店の全貌が見えないそこから、店内の喧騒に耳を傾けるのが好きなのだ。

席に座って、目の前のドアに立てかけられた黒板のメニューに目を走らせた。前菜+メイン+デザートで41ユーロのメインメニューには、この店で定番の、豚の頭肉を使った前菜や、牛タルタルステーキとフリットが列記され、大いに惹かれたが、久しぶりだったこの日はシンプルに昼のメニューから選ぶことにした。

昼は、前菜、メイン、デザートとそれぞれ2〜3種類の選択肢があり、3皿取ると22ユーロ。前菜+メイン、もしくはメイン+デザートの2皿なら19ユーロ。メインだけならば15ユーロで食べられる。

メインメニューの料理は全体的にボリュームがあり、昼ならメインひと皿で十分なくらいなのに対し、昼のメニューは少し軽めでランチにちょうどいいポーションだ。前菜+メインと2皿に留めたら、程よく満たされて午後の仕事が捗りそうな按配だし、デザートまで3皿フルに食べれば、しっかりお腹いっぱいになる。
次ページ > 口の中に蘇るフリットの香ばしさ

文・写真=川村明子

ForbesBrandVoice

人気記事