パリのビストロのエスプリが堪能できる11区のグルメ通りの店

「ビストロ・ポール・ベール」オーナーのベルトラン・オーボワノー氏


それを聞いて、自分がこの店から遠ざかっていた理由がなんとなくわかった気がした。

以前私は、夜に訪れることがほとんどだったのだ。とても勝手な言い分だが、いつからか、どこか温かみがなくなったような、よそよそしい空気を感じていたのだと思う。大部分が初めて訪れる客で埋まるとあれば、それも致し方ない。

今回、私は立て続けに昼にだけ出向いた。毎度、パリの日常の空気とざわめきを肌で感じ、それがとても嬉しかった。カウンター脇のテーブルに座ったことで、ベルトランと常連客たちのやりとりにも耳を傾けることができた。

夜に外国人客が増えたからといって、料理の軸がぶれたりもせず、ポール・ベールに行ったなら食べたい味が、そこにあった。スフレだって、相変わらずのボリュームで出てきた。


ダイナミックなスフレ

人々がイメージするこれぞパリのビストロの内装に、典型的な料理を揃えるがゆえに、「いつかこの店もテーマパークになってしまうんじゃないか」とベルトランは心配していたが、彼がいる限り、この店からビストロのエスプリが消えることはないだろう。

「僕たちは、人間味を伝達するためにここにいるんだ」と言うベルトランの言葉は、いまもしっかり店内を統べている。

連載:新・パリのビストロ手帖
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文・写真=川村明子

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