「じゃあ、来週にでもまた来る!」と宣言して、翌週、秋のモリーユを目当てに再度ランチに出かけた。オフホワイトのキノコは、ウィスキーを合わせたクリームソースを纏い、真ん中に卵黄を載せていた。風味は強くなく、ほのかにヘーゼルナッツのような香りがした。
松のモリーユ 卵黄と絡めて食べる
秋に展開されるポール・ベールのキノコシリーズは、このモリーユが終わりを迎える頃に、今度はセップ茸、そして11月に入ったらトリュフが登場する。
日本に帰国する予定があり、セップ茸を逃してしまいそうだったから、そのまた翌週、今度はセップ茸を狙って再訪した。この時は、デザートもしっかり楽しみたくて、メインは摂らず、セップ茸と、仔羊の内臓のポワレという前菜を2品に、メインメニューのデザートからスフレを注文した。
肉厚なセップ茸
そして、これまでの空白を埋めるかのように、3週連続で、1人でやってきた私の向かいにベルトランが腰を下ろし、ゆっくり話をしだした。
ビストロ・ポール・ベールがオープンした1997年、店のあるポール・ベール通りには、他に1軒の店もなかった。バスチーユ広場より東は、まだまだ家具の工房などが多く、職人たちが働くエリアだった。
店を始めた当初は、近隣で働く人たちがお昼を食べに来て、夜は近所に住む人たちが食事に訪れ、常に満席ではなかったけれど、毎週来る客が大半だった。45席の店内には、フランス人しかいなかったそうだ。それが、地元客の通う知る人ぞ知るビストロは評判となり、いつしか予約困難な店になった。
20年を経た今、通りは、レストランだけでなく、パティスリーにワイン・カーヴ、食材店が並ぶグルメ通りに様変わりしている。ポール・ベールは席数が以前の倍以上と広くなり、夜の客の7割は外国人だ。大半は1〜2カ月前から予約が入ると言う。
そうして来る外国人客の中には(ベルトランは「アメリカ人」と限定していたが)、パリのクラシックなビストロと聞いてきたのに外国人しかいないじゃないか、と文句を言う人もいるらしい。連日満席は喜ばしいことだけれど、常連客が気軽に来られる状況がなくなってしまったのも事実である。