この日の前菜は、仔牛タンのサラダ・エストラゴン風味とビーツのカルパッチョの2品、メインには、サガリ肉のエシャロットソースとフリット、ローストチキンとピュレ、ヒメジとフェンネルのコンフィのポワレの3品が並んでいた。
この店、「ビストロ・ポール・ベール」は、内臓料理を何かしらいつもメニューに掲げている。私は内臓肉が好きだ。前菜は、仔牛タンのサラダに決めた。
メインは、少し迷った。ビストロの王道とも言える肉料理の2品。サガリ肉のエシャロットソースは大好物だし、ここに来てフリットを食べない手はない。が、思えば、この店でローストチキンもポテトのピュレも食べたことがなかった。ピュレは美味しいに違いない。そう思いながらも、口の中にはすでにフリットの香ばしさが蘇ってきていた。
仔牛タンのサラダは、茹でたジャガイモ、紫玉ねぎのスライスと一緒にオイルで和えたシンプルな味付けで、メインに向けて胃をいい具合にウォームアップさせてくれた。そうして迎えたサガリ肉は、絵に描いたような、どこにも期待を裏切る要素がないと思わせる姿をしていた。色も艶も匂いも。見惚れてしまい、すぐに手を付けるのを一瞬躊躇うほどだった。
牛サガリ肉のエシャロットソースとフリット
最初に、口に運んだのは、フリットだ。案の定、止まらなくなり、呆けたようにフリットを立て続けにつまんで、そうだ、お肉が冷めないうちに食べなくちゃ、とフォークとナイフを手にした。
ソースの役割を持つエシャロットを万遍なく絡ませて、噛めば噛むほど味が滲み出るサガリ肉を堪能しながら、なんで2年間も来なかったのだろうと不思議だった。
毎週通う秋のキノコシリーズ
特別価格の旬の料理とスペシャリテが書かれた黒板
この店にはビストロ特有のざわめきがある。バーカウンターの周辺にいつもオーナーがいる。目当てにやって来る常連客がいるから外せない不動の料理がある。食後のカフェ、横に添えられる小さなカヌレまでもが心地よい香りを放ち、ドアを開けたその時から、その場を後にする間際まで、パリのビストロを味わえる。
帰り支度をしながら、奥の間の壁に掛かっている「スペシャリテ」を列記した黒板に目をやると、中程に、モリーユ(アミガサ茸)とあり、怪訝に思った。モリーユは、通常、春のキノコだ。それでベルトランに聞くと、モリーユ・デ・パン(松のモリーユ)と呼ばれる秋に出るキノコで、松の木の根元に生え、2〜3週間しか出回らないという。