つまり、ターゲットがトイザらスに関心を持ったとしても、少しも驚くことではない。トイザらスの通販サイトでは現在、購入手続きはターゲットのウェブサイトに移動したうえで行うことになっている。
今回の提携は、ターゲットにとっては理にかなったものだといえるだろう。だが、トイザらスにとってはどうだろうか。提携のニュースを聞いて、自分が「グラウンドホッグ・デー(同じ日が繰り返される)」のループに陥ったのではないかと疑ったのは、筆者だけではないだろう。
過去にトイザらスがネット販売事業を競合他社にアウトソースした結果、何が起きたか覚えている人は多いはずだ。売上高とブランドのどちらの観点からも、自社のサプライチェーンに関する権限を手放すというのは、あまり良い考えではない。
商品より「体験」の提供を重視
破産した企業が資産を切り売りし、知的財産権も売却するケースは確かに多い。だが、トイザらスが同様にそうした手続きを行ったかどうかとは別に、同社がいまも米国において、小売最大手の1社の関心を得るのに十分なだけのブランド価値を維持していることは間違いない。
現在のトイザらスは、実際にはどのような状況に置かれているのだろうか? 自ら玩具のオンライン販売を行っているわけではない。サプライチェーンも自ら管理していない。新設した同社のサイトは主に、親と子供たちのための情報源ということになる。
興味深いのは、同社が新たにオープンする店舗だ。そのうち2か所は11月中に、ニュージャージー州とテキサス州で開業する予定となっている。店舗は以前より小規模になり、大量の在庫は置かない。代わりにプレイエリアを設け、インタラクティブ・ディスプレイを設置する。言い換えれば、消費者の「体験」に力を入れるということだ。
オンライン販売のための流通チェーンを整備していないこと、店舗に置く在庫を制限する方針であることは、トイザらスのビジネスモデルが全体として「体験」に焦点を当てたものになっていることを示す。
小売業界では、「体験」が話題になることが増えている。以前は店内にカフェを併設することでも体験的だとみなされたが、それはすでに過去のことだ。トイザらスはこの非常に興味深い時期に、ビジネスモデルを転換したことになる。
小売業者の大半がより多くの商品を売るために「体験」を提供しようとするなか、トイザらスは自らのブランドとして魅力を使い、「体験」を売ろうとしているとみられる。これは、うまくいくだろうか?
将来的にはそうなるだろう。だが、現時点では試験的なものであり、すべてはタイミング次第と考えられる。ただ、急ぎすぎていないという点では、トイザらスのやり方は賢明だといえそうだ。近く開業する2店舗のほか、2020年にオープンを予定しているのは10店舗だ。
トイザらスの売上高に最も大きく貢献するのは、玩具メーカーに商品の展示スペースを貸し出すことになるとみられる。それがうまく機能すれば、将来のコンセプトにとってのモデルとなるかもしれない。少なくとも、実際には消費者がどれだけ体験型モデルに引かれているのかを判断するための、素晴らしいケーススタディーの機会を提供してくれるものになるだろう。