ビジネス

2015.03.30

東京五輪後のキーワード「NMB2030」とは何か




「ハリウッドの世界的ヒットアニメは、ネパールのスタジオで作っているんですよ」

 人懐こい笑顔のジェフの話に、同行しているキランとサンジブは深く頷いた。ジェフは日米双方の経営環境に通じた在米40年の日本人起業家だ。キランとサンジブはいずれもネパール人。キランはカリフォルニアの映画制作スタジオを経営していて、ピクサーアニメやディズニーアニメとの関係が深い。サンジブは通信関連の実業家でジェフやキランのビジネスパートナーである。

 ヒマラヤの登山基地というイメージが強い私には「最先端アニメを作るネパール」がピンとこない。だが、実は欧米留学帰りの優秀な技術者が増える一方、人件費はアセアンの先進地域よりずっと安い。「いま離陸しかけている国です」というサンジブの言葉には説得力がある。折も折、成田国際空港会社が日本の企業連合を組成して、ネパール国際空港の運営を受注する動きが報道された。

 ジェフらとの会合の翌日、大手町のホールでミャンマー資本市場セミナーが開かれた。ミャンマーは国を開き、高い経済成長が期待されている。日本側の関心は沸騰し、官民挙げてミャンマー開国のお手伝いを続けている。とりわけ今年初秋までに開設される証券取引所への視線が熱い。セミナーは同取引所の開設・支援を続けている大和証券グループ、日本取引所グループと日本経済新聞社が共催した。登壇したマウン・マウン・テイン財務副大臣は「すぐに上場できる企業が数社あり、20社くらいは上場候補だ」と明言、聴衆を沸かせた。彼の自信に満ちた表情がリアルタイムのミャンマーを雄弁に物語っている。

 ミャンマーセミナーの翌日。私は隣家に越してきたモルシェド氏の挨拶を受けていた。彼はバングラデシュ人。母国から日本向けに靴や衣料品を輸出するため東京に代理店を設けているのだ。イギリス仕込みの英語が美しく、家族も礼儀正しい。バングラデシュの経済成長率は6%弱、日本企業の進出も盛んだ。

 建国記念の日。春節でも中国に帰れない鄭君の無聊を慰めようと新宿のセールに出た。ちょうど紅茶を切らし、カジュアルコートが欲しく、靴もぼちぼち新調しようかというタイミングだった。

 最初に寄ったデパートではインドの紅茶と並んで「ネパール茶」が置いてあった。「インドのアッサムの横にある茶園の産です。だから品質は同じ。けど値段は3分の1だよ」。ネパール人スタッフが言う。良い香りだ。立派な象嵌の木箱にも惹かれて衝動買いした。

 次に寄った地下街ではコート探しである。軽量で暖かく一番気に入ったものが激安だった。ネイビーブルーにダウンの裏地で8,000円。タグにはMade in Myanmarとある。

 最後は靴だ。小洒落れたお店にきれいな仕上げの紳士靴がある。革が柔らかく履き心地は抜群。店員さんは「革はイタリア製。日本の機械でバングラデシュで作ってます」。これが1万円である。

 鄭君が嘆いた。「もう中国製は価格ではかないません。これからはNMBの時代ですね」。Nはネパール、Mはミャンマー、Bはバングラデシュの頭文字なのだという。NIESやASEAN、BRICSから、いまやNMBなのか。

 インドの東側を囲むNMB諸国は国連に認定された最貧国だが、最近はその将来が大いに嘱望されている。3カ国合わせた人口は2億3,000万人、経済成長率は6~7%程度もあり、このペースなら2030年には現在の3倍近い経済規模が見込まれる。内政面の不安定要因があるものの、ChinaプラスOneを考えても非常に大切な国々である。NMBはアジアの中でとりわけ親日的だ。日本の誠実なサポートから豊かな果実が実ることを信じたい。NMB2030。これが東京オリンピック後のキーワードなのかもしれない。

川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.9 2015年4月号(2015/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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