チーズづくりの一族が、世界一の「マセラティ」の博物館をつくった理由


牛乳を55℃に沸かすと、悪い菌が死に、良い菌はそのまま生き続けてチーズの熟成プロセスに重要な意味をもつ。製造のプロセスも面白いが、熟成工程にも驚く。ウンベルトが見せてくれた熟成室には、8000個の“チーズ・ホイール”が眠っていた。人間が汗をかくように、チーズもまた油をかく。そのため、2週間ごとにすべてのホイールの油を拭いたり、丁寧に裏返したりする必要があるという。人間がやるには大変すぎる仕事なので、ロボットに任せているそうだ。

ホイール1個当たりおよそ100万円だとすると、この部屋は熟成室というより、パニーニ家にとっての“銀行”みたいなものだと、感じ入った。

ヨーロッパでは、社会的に成功すると農場やワイナリーをもつことが多い。さらに財を成したときは、社会に貢献するようになる。パニーニ家はその典型だ。

そして、地元モデナの文化に誇りをもっているからこそ、マセラティを保存しているのである。仕事だけではなく、生活することにも情熱を注ぐことで、街の中に文化が醸し出されてくる──。胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じながら、僕はチーズを抱えてモデナの街を後にした。


ピーター・ライオン◎モータージャーナリスト。西オーストラリア州大学政治学部 日本研究科卒。1983年に奨学生として慶應義塾大学に留学。Forbes、Car and Driver(米)、Auto Express(英)、Quattroruote(伊)などへ寄稿多数。ワールド・カー・アワード賞会長のほか、日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員を務めている。

文・写真=ピーター・ライオン

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