市民を脅威から守るアプリ 創業者は前科1犯の元ハッカー

アンドリュー・フレーム

ハッカー行為でFBIに捕まるという、激動の少年時代を過ごしたアンドリュー・フレーム。彼が創業したセキュリティアプリのシティズンは、米国民の安全を守るものとなるのだろうか。


アンドリュー・フレームは、スマホの機能に人間の基本的なニーズをもう1つ加えることができると考えている。それは、個人の安全だ。

長身でスリムなフレームは39歳。彼のスタートアップ「シティズン」は、ニューヨークのリトルイタリーにオフィスを構え、米国各地で起きるトラブルや犯罪に目を光らせている。

オフィスには何台ものワイドスクリーン・モニターが設置されていて、まるで航空管制室かウォール街のトレーディングルームのようだ。若いアナリストたちが、ヘッドフォンから聞こえる音声に耳を傾けつつ、ストリーミング形式のテキストチャットとマップ上の点滅を見つめ、アラートを発信する。

シティズン本社から約130km南にある都市フィラデルフィアで、ショットガンを持った男がうろついているとの無線連絡が警察に入った。シティズンの小型ブラックボックス「R1スキャナー」はこの緊急通報を瞬時にキャッチすると、音声をデジタル化してクラウドにアップロードした。

米国では誰もが警察無線を傍受可能で、愛好家やジャーナリストらに利用されてきた。シティズンも当局の支援や許可は受けず、独占技術であるR1を使って州警察や市警察、消防、救急医療、交通保安局、航空保安局といった各都市の緊急対応機関が使う最大900チャネルの公共無線をモニターし、録音している。小型で効率的、広い周波数帯をカバーできるR1を生かせば、新たなオフィスやスタッフなしにカバー都市を増やせる。例えば、デバイス1つでボルチモア全域をカバーすることができる。

フィラデルフィアをモニターしているR1がショットガンを持った男に関する通報をテジタル化すると、カスタムAIがすぐに通話を文字化して「男性」「ショットガン」といったキーワードを抽出。直近に目撃された地点がデジタルマップ上に赤く点滅する。

次にコミュニケーション・アナリストが緊急無線指令を聞き、事件発生現場から約400m以内のシティズンアプリユーザーに短いアラートを送る。警報が発せられる範囲は、火災なら半径約800m以内、テロ事件であればその都市全域など事象によって異なる。38人のアナリストが8時間交代3シフト制で24時間緊急事態に対応しているが、カスタムAIのおかげで、通常シフトならアナリスト1人で複数の都市をカバーすることが可能だ。

ただし、シティズンはプライバシー侵害や訴訟を警戒して、発信する情報は安全に対する脅威に限定している。不審人物の通報や医療問題、自殺、DVについては発信せず、投稿される情報はすべて人の手を介したもののみ。
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文=スティーブン・ベルトーニ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=松永宏昭 編集=森裕子

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