市民を脅威から守るアプリ 創業者は前科1犯の元ハッカー

アンドリュー・フレーム



データ化された緊急事態の情報はシティズンのデジタルマップ上に赤い点滅として表示。ユーザーのスマホにアラートが発信され、タップすればマップや詳細、他のユーザーのコメントを見ることができる。

ユーザーの現在地が事件の現場の近くであれば、スマホ上に録画ボタンが現われ、ユーザーは事件の動画を撮影し、投稿することができる。ただ、プライバシー保護やいたずら防止、殺人や暴力のライブ配信ができないように、コンテンツはすべてスタッフのチェックを経て公開される。ユーザーが撮影した動画は毎週100本以上がテレビのニュース番組に使われてはいるが、ユーザーは動画を投稿しても報酬はもらえない。ランキングや「いいね」の数によってゲーム化されることもない。

犯罪容疑者「フレーム少年」

シティズンは、アンドリュー・フレームの人生を語るうえで欠かせない「テクノロジー」と「警察機関」2つの要素を組み合わせたものだと言える。

1997年、ラスベガスでインターネット・プロバイダを経営していた当時17歳のフレームはある朝、まだ就寝中のところを武装したFBI捜査官にたたき起こされ、手錠をかけられた。

アメリカ西部、ネバダ州ヘンダーソンの貧しい家庭で育ったフレームだが、12歳の時、母親を説得して大学進学資金用だった貯蓄債券を売却し、大手家電量販店に店頭見本として展示されていたコンピュータを買ってもらった。

コンピュータとインターネットを身体で学び、フレームはほどなくチャット・ルームで一晩中過ごすうちに、ハッキングの技術を身につけた。14歳になると、ニセのIDを作って通販用ダンスCDに関わる職を得た。高校は1年で退学し、昼間はプロバイダ経営、夜はハッキングに没頭した。

「基本的にどこにでも入れるレベルになりました」

UFOに魅了されていたフレームは、NASA(米航空宇宙局)のジェット推進研究所の主要システムである「リマ」と「ビーン」にも侵入した。そして97年、別のニセIDと大いに盛った履歴書を使って、夢だったシスコのシステムエンジニアの職を得た。それはすぐに悪夢となってしまったが。

「まるで余命宣告を受けた気分でした」

先が見えない日々。情報は盗んでいなかったし、扱いは少年犯罪。だがNASAは、国際宇宙ステーションと火星探査機マーズ・パスファインダーでフレームのデジタル指紋を発見しており、損害は数億ドルに上ると主張していた。

結局、判事は映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』を彷彿とさせる判決を下した。映画のモデルとなった人物は、少年時代から詐欺を繰り返して何度も投獄されたが、後に更生してセキュリティ・コンサルタントとなり、FBIアカデミーで教鞭を執るまでになった。一方、フレームは2万5000ドルの罰金と100時間の地域サービスを科され、5年間の保護観察処分となった。そして、NASAのジェット推進ネットワークにおける脆弱性を洗い出し、すべてNASAに報告するよう命じられた。
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文=スティーブン・ベルトーニ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=松永宏昭 編集=森裕子

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