ラスベガスは、ホテルが15万の客室を持ち、アメリカ最大の集客をする街だけあって、近年レストランでの客単価は上がり続け、いわゆる世界のカリスマシェフが自分の名前を冠した高級店を出す場所になっている。
例えば、故ジョエル・ロブションやウルフギャング・パック、ゴードン・ラムゼイなど、カリスマシェフである条件のひとつは、ラスベガスにレストランを持っていること、とさえ言われている。当然、松久は確実にそのカリスマシェフの1人と位置づけられている。
ちなみに、上に名前を記したシェフたちは、それぞれフランス人、オーストリア人、スコットランド人だ。
従来のアメリカ料理の枠をどんどん超えたところに、食の楽しみを見出そうとするグルメな食事客にとって、これらのカリスマシェフたちが、さまざまなバックグラウンドを持っていると聞くだけでワクワクするようだ。
ネタは自ら買い付けに行く
実際、松久の料理は、日本食とは言いながら、アメリカ人たちは「日本食プラス」とイメージする。松久自身、若かった頃、ペルーに行ったとき、現地の料理に強い影響を受けたと語っている。
ペルーでは、日本食など食べたことのない人たちにも受け入れられる日本食を試みたからだ。それを彼は自著で「NOBU Style」と語っている。
寿司を握る松久信幸 (Getty Images)
NOBU Styleは創意工夫に富むだけではなく、伝統もしっかりとおさえている。ニュース専門放送局、CNBCのカメラの前で、自分が好きなネタはキンメダイだという話をしながら、「鮨っていうのは、握ってすぐに口に運んでくれなきゃいけねえんだよ」と語る。
また、「ほれ、ひと口で食べてごらん。握るから」とインタビュアーであるジャーナリストに自ら握った伝統的な鮨を勧める。「こんな美味しい鮨は食べたことがない」と涙ぐむジャーナリストの表情が実に印象的だった。
番組では、ワサビやコメは必ず日本のものを使うと素材へのこだわりを披露している。そして、これだという鮨ネタがあれば、自ら買い付けに行く。筆者はNobuでシェフをしていた人間から、ツバメの巣を中国から取り寄せてアピタイザーとして調理して出していたと聞いたが、値段は1つ400ドルだったという。