全ては入念な計画と大胆な決断の賜物だった。同社のロバート・アイガー最高経営責任者(CEO)は先日発売された新著「The Ride of a Lifetime」で、最後の3章をディズニー+に割き、メディア業界の破壊や、グローバル規模で成功を収めることの重要性について書いている。さらに、Disney+を成功に導くため、適当なインセンティブを提供する新たな報酬体系(利益とは異なる指標を使用したもの)を構築したことについても触れている。
しかし同著では、アイガーが最近になってデジタル変革論者となったわけではないことが示されている。彼は1970年代に、ABCで伝説のテレビプロデューサー、ルーン・アーリッジと一緒に働いていた時から、テクノロジーに関わってきた。アーリッジは、『マンデー・ナイト・フットボール』や『ワイド・ワールド・オブ・スポーツ』などの製作を通じ、スポーツ番組に革命を起こした人物だ。
必要なのは視聴者の心に訴えるストーリー作りだと考えていたアーリッジは、ジム・マッケイ、ハワード・コセル、キース・ジャクソン、フランク・ギフォード、ドン・メレディス、ジャッキー・スチュワートといった逸材を確保。同時に、リバースアングルカメラ、スローモーションによるリプレー、衛星生中継など、最新テクノロジーへの投資も惜しまなかった。
ただアイガーには、アーリッジ以外にも多くの偉大な師匠がいた。1985年、キャピタル・シティーズがABCを買収したことで、トム・マーフィーとダン・バークという2人の新しい上司の下で働くこととなる。2人の異なるマネジメントスタイルにより、意思決定がより分権化された一方、コスト削減の徹底的な追求も求められた。
この頃、アイガーが大きな影響を受けたひとつの教えがある。バークは彼に「トロンボーン用オイル製造のビジネスには関わるな」と言ったという。これは、小さなことにとらわれて時間を無駄にするな、というアドバイスだった。
このアプローチは、アイガーがABCで『ツイン・ピークス』などの実験的番組にゴーサインを出す際に大きな役割を果たした。もちろん、中にはミュージカルドラマ『コップ・ロック』のような失敗作もあった。しかし、「全くリスクを冒さないよりも、少しは失敗しながらも大きなリスクを負って進んでいく方がよい」とアイガーは述べている。