日常生活のイノベーションを考える


──先代の17代目はどのような方だったんですか?

16代目の祖父と比べると、10倍くらいの売上をつくった人です。いろんな背景もあって運が良かった部分もあるのですが、同じ男として超えたい人物でした。だから新商品を出して、蔵のすべてをオーガニックにしてと取り組んでいましたが、その準備をしていた最中に震災に見舞われたので、本当に凹みました。

ただ、自分は売上で先代を越えることはないとも感じていました。父は今メインになっている蔵を建て、自然酒という代表作を僕に残してくれました。じゃあ、僕が次の世代に何を残せるかと考えて、思い当たったのが、村のすべてを無農薬の田んぼにしようと思ったのです。



──なぜ無農薬の田んぼを?

農薬とか化学肥料を使って収穫量をあげる現代農業は、どうしても「自分の代さえ良ければいい」みたいに考えがちです。毎年同じ収穫量を保とうとすると、少しずつ化学肥料を増やさなくちゃいけない。でも、化学肥料を使い続けると土地がやせてしまうんです。10年後や50年後の方がいい米がとれる、そういう田んぼを残したい。そうすれば19代目から先、400年、500年と続いてくれるんじゃないかなと思っているんです。

──村中のすべての田んぼを無農薬にするために、現段階では何%くらいを目指しているのですか?

ちょうど10分の1です。うちで造っているお酒に使う米の割合が、村で作っている米の10%なのです。もし、すべて無農薬という目標が自分の代で叶わなくても、次の世代がそれを目指してくれるだろうと思うんです。そういう意味では、自分が死んでも夢が続く。一生を超えた夢を見られる仕事ではないでしょうか。



──100年前からのメッセージは、どのように感じ取りますか?

僕らは「酒造りをしている」と表現することがありますが、お酒は人間につくれるものではありません。酒造りには人事を尽くすけれど、最終的には天命を待つんです。夏の天候は大切ですし、お酒を造る主役は、もともと蔵にいる微生物たちです。僕らがコントロールできるようなものではありません。

そんななかで、気持ちよく発酵できるよう試行錯誤をするのが人間なんです。最終的には待つしかない。「俺がつくったなんておこがましいことを言うんじゃない」という考えが、脈々と受け継がれています。

父から聞いたのは、「酒は百薬の長。体によいものでなくてはいけない。日本人の健康や幸せにお役に立てるようなお酒をつくりなさい」ということでした。だからこそ、余計な添加物は入れませんし、お米とお水だけで自然発酵させ、体になじみのいいものをつくっています。

また、「あぐらをかいて同じことをしていたのではだめだ」という教えも代々続いています。「その時代に合ったチャレンジをしていきなさい」とも教えられました。

文・写真=上沼祐樹

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