カスタマイズされた旅行体験は現在、それらよりもはるかにパーソナルなものになっている。いまや世界中の旅行者が、DNAキットを使って次の目的地を選ぶようになりつつあるのだ。
DNA検査は、以前よりも簡単に、そして安価に行えるようになっている。それに伴い、DNA検査が世界の旅行トレンドを動かすようになっている。そして、各社はそれに注目している。
2019年5月には、民泊サイト大手「エアビーアンドビー」と遺伝子検査サービスの「23アンドミー(23andMe)」が提携し、両社の「製品体験」に「ヘリテージ・トラベル」を導入した。簡単に言えば、23アンドミーからDNA検査の結果を受けとった客が、エアビーアンドビーを通じて先祖の出身地のどこかにある宿を予約したり、「古代の天然染色テクニックを学ぶ」などの体験を手配したりすることができるわけだ。
ヘリテージ・トラベルには、ひとつのマーケティング戦略と片づけられる部分もあるかもしれない。しかし一部の人たちにとって、DNAツーリズムは特別な意味を持っている。アフリカ系アメリカ人はDNA検査キットを使って、自分に縁のある国を見つけている。そうした情報は、以前なら知りえなかったかもしれないものだ。
「偉大なる無名の先祖は、以前からずっと重要な意味を持っていた」。エモリー大学で宗教とアフリカ系アメリカ人を研究するダイアン・M・スチュワート准教授は、「Vox」にそう話している。
「それに加えて、大西洋をまたいだ奴隷貿易の結果として米国にたどりついたアフリカ系の人たちは、その人固有の先祖をじかに知ったり、アクセスしたりすることができなかった。そのため、先祖をめぐる情報の探求が、いっそうさかんになっている」
アフリカ系旅行者の旅行体験を専門とする「Black and Abroad」は、DNAトラベルに着想を得たマーケティング・キャンペーン「アフリカに帰ろう(Go Back to Africa)」を展開し、有名な広告賞を受賞した。
ブラック・アンド・アブロードの共同創業者エリック・マーティンは、こう話している。「大勢の人が、先祖を知るためのDNA検査を受けている。そこで、そのアイデアを採り入れて、祖先の地を離れた人たち全体に役立つキャンペーンに組み込むにはどうすればいいのかとわれわれは考えた」
自分でもDNAをめぐる冒険を計画してみたくなっただろうか? ネット上では、ロンリー・プラネットに所属する6人がDNAキットを使った旅に出て、ポルトガル、日本、エストニアなどを訪ねた話も紹介されている。