「働き方改革」とともにオフィスのあり方が変わり始めている。人々の働き方とその環境は今後、どのような展開を見せるのだろうか。東急リバブル ソリューション事業本部副本部長の柿沼徹也と、OYO LIFE CEOの勝瀬博則に、本誌副編集長谷本有香が話を聞いた。
谷本有香(以下谷本):東急リバブルさんは住宅仲介だけではなく、法人向けの不動産サービスにも力を注がれていますね。働き方改革において不動産が担う役割は大きいと思いますが、不動産の専門家から見ていかがですか。
柿沼徹也(以下柿沼):多くの企業が働き方改革を推進しているなかで、オフィスのあり方は大きく変わってきています。柔軟な働き方を実現し生産性の向上を図るため、働き方に合わせて働く場所を選択できるようにする流れや、コミュニケーションやイノベーションが生まれやすいスペースを設ける動きなど、オフィスの立地や空間に新たなニーズが生まれています。日本の人口は、全国的には減少していますが、東京都では増えていて、女性やシニア世代の活躍による就業人口の増加などもあり、都心のオフィス需要は高まっています。今後ますますオフィスニーズは多様化していくのではないでしょうか。
谷本:企業は、自社オフィスで従業員がいかに健康的かつ快適に過ごせるかという点をとても重視するようになってきています。
柿沼:例えば、オフィス内にフリーアドレスを設けたり、カフェ風のコミュニケーションスペースをつくったりする例はよく聞きます。もちろんハード面の充実は大事ですが、それを利用した結果どのような効果があったかを検証することも重要です。弊社のグループ会社である東急不動産は、2019年竣工したオフィスビル「渋谷ソラスタ」内の新本社で、「働き方改革の見える化」を実施しています。従業員がオフィス内でどのように行動しているか、植物によるストレス軽減効果はあるかなど、多様な分析により、お客様に対する新しいオフィスのあり方・働き方の提案につなげる取り組みです。
欧米を中心に進化するシェアオフィス谷本:ここ数年、働き方改革、人材育成の一環として、企業が社員寮に力を入れる傾向も見られます。
柿沼:なかでも14年に乾汽船さんが東京都中央区に開設した「月島荘」は大変興味深い社員寮です。立派な社員寮なのですが、最大の特徴は、特定の企業の社員寮ではなく複数の企業が利用できるところにあります。40社ほどの企業の社員が利用し、共用スペースでは異業種交流が活発に行われ、利用者から大変好評を博しているそうです。
谷本:スケールの大きなシェアハウスのような環境をつくったことで、「月島荘」は若手社員にとって自己成長の場となっているのですね。世界ではIT系ノマドワーカーが自ら働き方を変え、ビジネスに大きなインパクトを与えています。OYOグループはインド発のスタートアップですが、ホテル運営だけでなく、グループとしてはコワーキングスペースにも進出していますね。勝瀬さんから見て、グローバルにおける「場所」の定義は変わってきていますか。
勝瀬博則(以下勝頼):IT化が進んでいる欧米では、シェアオフィス、コワーキングスペースの需要は爆発的に高まってきています。柿沼さんからお話があったように、シェアというのは、みんなでひとつのスペースを分け合い活用するのが最大の醍醐味。これをさらに大きな定義にすると、シェアというものの価値がわかってもらえると思います。欧米のビジネスパーソンは、地球そのものをシェアすべきという感覚で参加しています。リソースのシェアにも結びつく考え方なので、オフィスには、パソコンやスマホなど必要最低限のものしかもち込みません。他者や環境に配慮しながら、ポリティカリーに正しい判断をするわけです。このトレンドがどういう経緯で発生し、なぜ成長しているのか、不動産に限らずすべての業界が注目すべきです。
谷本:OYO LIFEさんとしてはどのように向き合っているのでしょうか。
勝瀬:ホテルのイメージが強いOYOですが、私たちはホテルの会社だと名乗ったことはないのです。クオリティ・リビング・スペースを多くの方に提供できる会社でありたいと思っています。IT、テクノロジー、ビッグデータを使い、オフィスを含むあらゆる人が関わる空間の価値を徹底的に上げていくのが私たちの使命となります。
谷本:特に欧米の企業では、オフィスという箱がいわゆる所有というものからシェアというものに変わってきています。テクノロジーの力を使って、シェアの領域がさまざまな「場」に波及していくわけですね。
勝瀬:その通りです。ITビジネスの概念として、双方向性は非常に重要なキーワードになります。例えば、シェアオフィスであれば、私たちが何をすれば働きやすい環境になるかを考えてもあまり意味はありません。お客様が生産性を上げるために何が必要なのかを私たちに教えてくれる仕組みをつくれるかどうかがカギとなります。お客様がどのようなプロファイルをもち、どのエリアで、どういうオフィスを求めているか、その答えをリアルタイムで導きだすのがテクノロジーの役割になります。
10月9日に開催された「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05 Future Work Style Session 2019 Autumn」。左からモデレーターを務めた弊誌副編集長の谷本、柿沼氏、勝瀬氏。地方活性化のカギを握るサテライトオフィス谷本:日本ではスマートシティやコンパクトシティ構想など首都一極集中の動きが見られますが、柿沼さんは、地方はどのように変化していくとお考えですか。
柿沼:15年から総務省が推進している「ふるさとテレワーク」により、企業が地方にサテライトオフィスをつくるという面白い動きも出てきています。東京に本社を構えるセールスフォース・ドットコムさんが和歌山県白浜町に開設したサテライトオフィスでは、生産効率が20%上昇したという記録があるそうです。海が一望できるロケーションで、社員はオンとオフの切り替えがきちんとできるのでしょう。一方で、こうした外資系の大企業が地方にオフィスを構えることは、その街を活性化させる起爆剤にもなりえます。こうした動きは現在上昇トレンドを描きつつあり、投資家の注目を集めています。
谷本:未来の働き方から、「場所」の可能性はさらに広がりますね。
柿沼:首都圏でも、都心のオフィス需要が高まる一方で、郊外のサテライトオフィスやシェアオフィスが増えています。育児中の社員やIT系の企業で働く人たちに大変人気があるそうです。現在は都市型のサテライトオフィスが主流ですが、今後は地方をいかにサポートしていくかが課題となるでしょう。弊社では、企業がオフィスや寮、保養所などを売買する際のサポートを行っています。中には全国200カ所の事業所の移設のお手伝いをした例もあります。不動産に関する戦略を検討される際には、ぜひご相談いただきたいですね。
柿沼徹也◎東急リバブル常務執行役員ソリューション事業本部副本部長。1988年、東急リバブル入社。流通部門営業推進部長、経営管理本部マーケティング推進部長等を経て、17年、ソリューション事業本部へ異動。19年より現職。
勝瀬博則◎OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN CEO。Booking.comの日本・韓国統括を経て、2017年香港Tink Labs、シャープとホテル向け無料携帯端末handyをスタート。2018年より現職。
東急リバブル
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