試作機を学生たちに試してもらうと「よく見える」と喜びの声が上がったのだ。この時、菅原は「これを製品にすれば、視力に問題を抱えた人たちの役に立てる」と考えた。その後、さまざまな展示会でも、同様の声を聞き、網膜投影技術の有効性を確信することに至った。
また同時期に、高齢化を迎える日本で、眼の病気が急増することも知った。緑内障や白内障、眼底の変化による加齢黄斑変性症などの眼の病は、加齢とともに進行するため、今後社会問題化すること必至だ。視力に問題を抱えた人々、高齢化に伴い不可逆的に発生する眼の病という社会課題に対し、2015年秋から厚生労働省へアプローチし、医療機器認証を本年度中に目指している(臨床試験はすでに終了)。
QDレーザの最新のプロトタイプは、メガネ部分が約60グラム、コントローラが約260グラムと大幅な軽量化、小型化に成功している。
QDレーザのブース
デバイスで健常者の能力を超える
小型化だけではない。網膜投影の技術により、ロービジョン者が健常者の能力を超える日もそう遠くはないと菅原は言う。
「たとえば、カメラで撮影した画像を網膜投影すれば遠くを見たり、暗い場所でもハッキリと見ることができる。また、携帯型翻訳機で出力された文字を我々のアイウェア型のデバイスで網膜に投影すれば、相手の顔を見ながら、言葉がわからなくても会話することが可能になります。こうしたオーグメンテッドリアリティ(AR)と呼ばれる技術、つまり視覚情報にデジタル情報を重ねる技術はすでにあり、それを発展させる段階に入っている」
また菅原は、「弊社のデバイスを装着すると、目のピントを合わせる必要がないため、目が疲れにくい特徴があります」とも語る。
杉内は、「究極的には、弱視だとロービジョン者が感じないくらいに、技術が進歩してほしい」と今後への期待を語った。
同社のように社会課題解決に挑むソーシャル・アントレプレナーは確実に増えている。たとえば、途上国でマイクロクレジットを中心にサービスを展開する五常・アンド・カンパニーや、糖尿病患者のために世界初、採血不要の血糖値測定器を開発しているライトタッチテクノロジーなど、ファイナンスからメディカルまで幅広く、かつ相当数にのぼる。
「社会を変えたい」と漠然とした夢を語っていた若者たちがいたが、現在のソーシャル・アントレプレナーたちは、社会性(ソーシャル)と事業性を見事なまでに高度に両立させている。テクノロジーの進化が「志」の背中を押す。大きな変革期に差し掛かったことは間違いなさそうだ。