民族共生象徴空間「ウポポイ」の女性職員が語る、いまを生きるアイヌ

アイヌ民族舞踊を踊る長野さん(ASAKO YOSHIKAWA撮影)


──平取町役場で働くことになったのは偶然だった?

はい。アイヌ文化とは関係のない部署での採用でした。総務課に配属され、受付や郵便物の仕分けなどなんでもやりました。そんななかで、全国に先駆けて「アイヌ文化振興対策室」が設置され、配属されることになりました。まさか、自分がアイヌ文化に関わる仕事をするとは思ってもいませんでした。

ムックリを披露するウポポイ職員
ウポポイ職員同士で練習したムックリを披露しているところ(アイヌ民族文化財団撮影)

──それまで、アイヌ文化に関わりたいという思いはあったのでしょうか?

答えるのは難しいですね。自分がアイヌであることに前向きではない時期もありました。父方の祖母は相当苦労したようで、死ぬまで差別された話ばかりしていました。自分も差別されたことがあるし、同世代が差別されているのを目の当たりにしたり、話を聞いたりしていました。差別が怖くて。アイヌであることを隠しながら学生生活を過ごしました。

──どうしてアイヌ文化に対して前向きになることができたのでしょうか?

母方の祖母がアットゥシ*織をしており、幼い頃から生活の中で自然とアイヌ文化に触れていたので、興味はありました。でも、アイヌ文化振興対策室に異動になったことで、自分の心境が大きく変わったのだと思います。

仕事を通して、木彫や刺繍の工芸家さん、アイヌ語教室、平取アイヌ文化保存会、平取アイヌ協会ほか、全道各地でアイヌ文化に日々向き合っている人たちと出会い、そんな人々に惹かれていきました。そして、「なぜこれほどにアイヌ文化を大事に思っているのだろう?」と考え、自分も先祖が大切にしてきたアイヌ文化を学びたいと思うようになったのです。

二風谷地区のアイヌの伝統的な家屋
長野さんが生まれ育った二風谷地区では、伝統的な家屋が保存されている(筆者撮影)

──平取町役場では、イオル再生事業や、私も学生時代に参加した「大地連携ワークショップ」など、アイヌ文化に関わる重要な事業に取り組まれましたね。

さまざまな事業を通して、多くの方が二風谷を訪れ、アイヌ文化をより深く知ってくださることはとても嬉しかったし、やりがいもありました。大地連携ワークショップは、2018年から参加対象を大学生だけではなく一般にも広げ、とても人気の事業となっています。

二風谷ダム
大地連携ワークショップで二風谷ダム案内中に参加した大学生たちと(筆者撮影)
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文=谷村一成

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