英国のリーダーの根底にある、Fairness(平等・公平さ)の精神
問題を抱える経営者は他にも大勢いると考えられる中、なぜサッチャー元首相は私のような英国で日本人向けのニッチなビジネスを運営する日本人の経営者である私をここまで助けてくださったのか。
一国の首相として公務で多忙を極める立場でありながら英国の経営者たちを支援するのであれば、一般的に考えれば英国人を優先するでしょう。それにもかかわらず、日本人である私にも親身に対応してくださったのです。
パーティでのサッチャー元首相によるスピーチ。スピーチでは「私を称えてくれた田崎さんに履歴書を送りますので、仕事を紹介してください」と冗談を交えながら、人材紹介のビジネスの成長も応援してくれました。(サッチャー元首相右側の黄色のネクタイの人物が筆者)
これまでのコラムでは、私が英国に来てから幸いなことに日本人であることで差別を受けたことはなく、誰もがフェアに接してくれたことを書いてきましたが、サッチャー元首相も私に対しフェアに接してくれました。それは、英国民そして英国のリーダーである首相にもFairness(平等・公平さ)の精神があり、たとえ私が日本人であろうと皆が平等に接してくれたのだと考えています。
それ以来、「Freedom & Discipline(自由と規律)」に加え「Fairness(平等・公平さ)」が、仕事だけでなく私が生きる上での2つの大きな精神となったのです。
「鉄の女」の素顔
サッチャー元首相は、1970年代に英国病と呼ばれ、当時公共事業だけでなくさまざまな産業が国有化されている状態で国民の就労意欲や国際競争力が低下していた中、1979年に英国初の女性首相に就任し民営化を推し進める大改革を実現。
また、当時の米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ大統領とタッグを組み、世界政治においても冷戦に終止符を打ちベルリンの壁崩壊を成功させるなど、さまざまな国際問題の解決にも積極的に関与しました。まさしく一国の首相そしてグローバルリーダーと言える人物で、「有言実行」は彼女のためにあるような言葉だと思っています。
同氏は1990年に首相を退任後、貴族院を務められた後に政治から身を引き、2013年に亡くなりました。在任中は保守的かつ強硬なその政治姿勢から「鉄の女(Iron Lady)」の異名を取ったことで知られています。英国では彼女の政治姿勢に異を唱える人が多かったことも事実であり、二分された評価や、そのパブリックイメージは今後も変わることはないでしょう。
一企業の経営者である私が、特定の政治家について述べたり肩入れをするような発言をすることは相応しいことではないかもしれません。しかし、私のコラムを読んでくださっている皆さんにこれだけは知っていただければ嬉しく思います。サッチャー元首相の人としての素顔は、私のような日本人にもフェアに接してくれた心の優しい女性であることを。
パーティの後、サッチャー元首相から筆者に宛てたお礼の手紙を紹介します。
「田崎様、先日は暖かいおもてなしをありがとうございます。パーティの出席者の皆さんは素晴らしい方々ばかりで、私たちが抱える課題について話ができたことはとても有意義でした。田崎さんの福利厚生のビジネスが成長することを願っています。
また、素敵なティーカップとソーサーをありがとうございます。大切にします。心を込めて。──マーガレット・サッチャー」
連載:グローバルリーダーの育成法
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