家族が罹ったインフルエンザはペットにも感染するのか?

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そもそも、細菌やウイルスなどの病原体は、感染(細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入し、増える状態となること)を起こす動物(宿主)が決まっている。病原体に対し、強い、弱いといった問題ではなく、そもそも宿主以外の動物には、病原体も容易に感染することができないのだ。

俗に猫風邪と言われる猫伝染性鼻気管炎は、猫ヘルペスウイルスが原因の感染症で、猫同士の間では非常に強い感染力を持つが、人には影響を及ぼさない。同様に、人に感染する一般的なインフルエンザウイルスであれば、同時に犬や猫に感染し、症状を出すことはないと言える。

ただしSFTSなどのように、人も動物も幅広く宿主とする病原体も多いことから、当然これらが引き起こす人獣共通感染症には、注意が必要だ。感染症の6割以上が、これにあたるとも言われている。

また、鳥インフルエンザの人への感染が懸念されるように、動物に感染を繰り返すうちに、特性が変化し、人へも感染する性質を獲得する病原体もあることは、新たなリスクとして押さえておきたいところだ。

動物の常在菌が感染症を引き起こすことも

以上は主に、人や動物に感染し、病的な症状を引き起こす病原体についての話になるが、「常在菌」という存在にも注目したい。

「常に在る菌」と、読んで字のごとく、健康な人も動物も、皮膚や口腔内、消化管に多くの細菌を持っている。常在菌は、過度に増えることなくバランスを保って存在している場合、その動物に対し、害を及ぼさないばかりか、健康を保つために役立つ場合もある。

ところが、ある動物にとっての常在菌が、人には感染症を引き起こす病原体となる場合がある。例えば、「猫ひっかき病」という感染症が存在するが、これは猫(犬も)の常在菌であるバルトネラ菌が引きおこす感染症だ。その名の通り、ひっかき傷や咬み傷を介して人間に感染する。そして、傷を受けた部分の腫れや疼痛、長期的なリンパ節の腫れを引き起こす。

こうした細菌が、健康な皮膚に付着しただけであれば、皮膚のバリアが体内への侵入を防止し、感染を防いでくれる。その間に洗い流せば、感染症につながる恐れは低い。ところが、怪我や皮膚疾患でバリア機能が弱っていると、そこから細菌が侵入し感染を許してしまう。動物に咬まれる、引っかかれるという時は、これが同時に起こり得る。

著者にも経験があるが、鋭くとがった爪や歯から受けた傷は、傷口こそ小さいものの、深手の場合が多い。見た目には2、3日で傷が閉じ、治ったかのように見えるが、深部でじわじわと感染が広がり、化膿して痛い目を見る。冒頭の蜂窩織炎も、こうした経過の中で起こる可能性がある。

人と動物は、うつし合う心配のない病気も多々あるが、健康な動物だからと安心しているところに、思わぬ感染症をもらい得ることは理解しておきたい。これも、種差のある「人とは違う生き物」だという認識が大切ということだ。
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文=西岡真由美

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