ロンドンのガゴシアン・ギャラリーで個展「future history」を開催した、バージル・アブローと村上隆
今年7月にシカゴでコンプレックスコンを開催した時、運営サイドは正直クールダウンしていました。ビジネス的にもそこからさらに拡大することは、期待していなかったんです。
でも来場者は違った。熱狂していたのです。
各ブースに長い列ができて、会場には両手に持ちきれないほど多くのショッピング袋を持った来場者で溢れていました。会場に並んだKAWの商品も、僕の商品も注目を集めていました。
こうした光景を見て、このイベントはファッション業界にも、アートの世界にも変化をもたらすことを確信しました。
コンプレックスコンに来ることのできなかった人たちは、インスタグラムを通して得る情報から、想像力を働かせるわけです。
「コンプレックスコンってなんなんだ。ウッドストックみたいなことが起きているのか」と。
50年前に開催された「愛と平和と自由」のロック・フェスティバル、ウッドストックの良し悪しの判断はつきませんが、ウッドストックは、「ウッドストック」という現象でした。
それと同じく、コンプレックスコンも、「コンプレックスコン」という現象なんです。これから一体何が起こるのだろうと人々の想像力を掻き立てる、大きな可能性を秘めたものなのです。
僕は20代の頃、アーティストを目指してNYに渡りました。そこでは、現代アートの世界のルールを学ぶ必要があった。
日本から来た僕にとって、当時のアートの世界は未知のもので、アートの中心地であるアメリカでデビューをすることは、とても困難なことでした。
でも今の時代では、誰がルールを作って、誰がゲームチェンジャーなのか。それは、あなたである可能性もあるんです。
今アーティストを目指している人には、こんなに簡単な時代なんてない、ということを伝えたい。
かつて、顧客はオークション会社やギャラリーで作品を購入していましたが、インターネットがこのルールを変えました。今ではアーテイストと顧客が直接ビジネスをすることができる。
アートというものに、誰もが簡単に関わることができるようになりました。
今年7月に富士山の麓で開催されていた「KAWS:HOLIDAY」
今年4月にKAWSの絵画が香港のサザビーズで1478万ドル(約16億4700万円)という額で落札されたことも、アートの世界で大きな変化が起きていることを決定づける出来事でした。
彼はオークションで高値のつく作品を生むアーティストでもありますが、Tシャツやフィギュアを一般の消費者向けに販売して、アジアで大変な人気になっていることは、ご存知の通りです。また、彼が土台を築いた、作品としての玩具「アート・トイ」のマーケットも拡大化が進んでいます。
これは、ドーナッツ化現象とでも言えますでしょうか。本来アートの中心になかったストリートカルチャーや、玩具というマーケットが、アートのど真ん中へと移っていく流れの中で、オークション会社やギャラリーがKAWSを発掘したんです。
僕は今、アートマーケットの大きな変化を感じています。だから今年のコンプレックスコンではこれまでよりも大きなブースを出展しました。
なぜならここが、僕たちが作品を売るメイン店舗だと思っているからです。メインターゲットは、昔からアートマーケットにいるクライアントではない。今日ここに来ているあなたたちです。
今日ここにあるストリートカルチャーが、高尚なものではないからでしょうか。かつてのアートマーケットには、私たちが今ここにいるような世界に対して拒絶反応を示す人もいます。しかし、時代が変化していることは事実です。