ヴェルサイユ宮殿での作品展やルイ・ヴィトンとのコラボレーション、そして、カニエ・ウェストのアルバムのジャケットデザインや、最近ではビリー・アイリッシュのミュージックビデオを手がけたことなど、これまでの実績を見れば、それは明らかだ。
村上は、今年で4年目を迎えた、LAのロング・ビーチで開催されるストリートカルチャーの祭典「コンプレックスコン」に初年度からアートディレクターとして関わり続けている。
「アート・バーゼルと同等に重要」というこのイベントに力を入れて取り組んでいるのは、現代アートの世界が今、大きな局面を迎えているからだという。
11月2日、トークセッションに登壇した村上の言葉を、一部抜粋してここに紹介する。
僕がこれから話そうとしているのは、コンプレックスコンの重要性と、現代アートの世界で何が起きているのかということです。
まず、このコンプレックスコンというイベントについて。僕は2016年の初回からアートディレクターとして参加してきましたが、正直、このイベントがどういうものなのかわからないまま関わり始めました。
元々、アメリカのメディア「コンプレックス」のファンではありました。カニエ・ウェストのゴシップから彼のビジネス関連の話などが載っていて、シンプルに面白いなと思っていたんです。
きっかけは、彼らから取材依頼をもらったことです。コンプレックスのオフィスがあるNYに、他の仕事で訪れる機会に合わせて実際に訪ねたんです。
そこで、当時の社長マーク・エコーから、コンプレックスコンを始めようとしていること、そこで僕にアートディレクターを引き受けて欲しいという話をもらいました。
当時から彼は、ファッション業界における見本市を一般の人にも解放するというコンセプトでこのイベントを実現したいと言っていました。
しかし、いざ一般向けに開催するとなると難しい。来場者はファッション業界以外の人も含まれるし、そこで何が求められているのかもわかりませんでしたから。
本当に最初はコンプレックスコンがなんなのかわからないまま、会場のエントランス、会場内のモニュメントのデザインを手がけていたのですが、ここに今いる皆さんのように、多くの人が僕を歓迎してくれました。
2年目はルイ・ヴィトンのメンズのクリエイティブ・ディレクターであるバージル・アブローとトークショーに登壇しました。
そこで彼は、2009年に僕がルイ・ヴィトンをコラボをしたことに対して「アーティストがルイ・ヴィトンとコラボしたこと」が素晴らしかったとコメントしてくれたんです。
それまで多くの人は、「ルイ・ヴィトンがアーティストとのコラボを選んだ」という、ラグジュアリーファッションブランドからの目線で意見を述べていました。
アーティストからの目線で、公の場でそう言ってくれたのはバージルが初めてだった。当時はアートの世界でも、そんなことを言う人がいなかったから、とても嬉しかったんです。
バージルの出身地であるシカゴは、美術館やギャラリーが少なかったこともあり、そのコラボで初めてアートを体験できたというんです。そういったエピソードから、僕に対する純粋なリスペクトを感じて、一緒に仕事をしようという話が形になりました。
コンプレックスコンでも一緒にTシャツを発売して、その後は、一緒に個展も開催しました。