「湯道」(連載第40回に詳しい)の家元として、出張先や旅先で少しでも時間があれば地元の銭湯や湯処を訪れている。それらを雑誌『Pen』の連載「湯道百選」で書いたり、ラジオ番組の企画に落とし込んだりしていると、さらに貴重な情報が舞い込んでくる。
先日は和ハーブ協会の代表・古谷暢基(まさき)さんの案内で、岐阜県の「日本の薬草の宝庫」と呼ばれる村を訪れ、露天の薬草風呂に入ってきた。
場所は岐阜羽島駅から車でだいたい1時間ほど。古事記や日本書紀にも登場する伊吹山は「神の山」と呼ばれているのだが、その伊吹山の麓に旧春日村というエリアがあって、およそ300近い種類の薬草が自生しているという。その昔、中国で仏教を学んだお坊さんが薬草の種を持ち帰り、修行の場である伊吹山に蒔いた。
土地柄、医者に通うのが大変だった村人たちは、この薬草を煎じて飲んだりお風呂に入れたりして、病気の予防と治癒に取り組んだ。誰もが山で摘んだ薬草を背の籠に入れて歩くわけだから、籠の隙間からこぼれた薬草が山中に繁殖する。その結果、日本で唯一薬草で生計を立てられる村として発展したのだそうだ。
つい最近まで薬局もなかったらしく、薬草に関してはいまも村人のほうが薬剤師より詳しいという。
僕が最初に訪れたのは、地元で採れた薬草の料理を楽しめるカフェ「キッチンマルコ」。店を営む藤田絹美さんは薬草採りの名人として有名で、ちびまる子ちゃんに似ていることから「マルコちゃん」と呼ばれている。ここで村や薬草についてのお話を聞きながら、おいしいランチプレートをいただいた。
次に、伊吹山の7合目にある一軒の小屋に案内された。持ち主の小寺優(まさる)さんによれば「このあたりの畑まで通うのが大変で、前日に泊まって翌朝すぐに畑仕事や炭焼きができるように建てた」とのこと。見れば、畑の端に五右衛門風呂が鎮座しており、薬草のつまった袋が浮いている。
中身はヨモギ、トウキ、ドクダミ、シシウド、イノコヅチ、カワミドリ、クロモジ、タムシバ、イブキジャコウソウの9種類で、マルコさん秘伝のブレンドだ。
湯心地は、これまで入ったお風呂ベスト3に入る、素晴らしいものだった。まず山の湧き水を沸かしているので、湯が柔らかい。そこに山から爽やかな風が吹き、雲の隙間からは神々しい光が差し、葉擦れや虫の音が聞こえてくる。薬草の香りも立ち上る。五感がフルに刺激され、自然のエネルギーが身体の隅々まで充電されていくようで、「黄泉がえりの湯」という言葉が脳裏に浮かんだ。
仕事終わりに毎日入れる小寺さんがとってもうらやましいです!
イメージを形にする愉しみ
「ブレンド」といえば、先日キッコーマンが始めた「WINE BLEND PALETTE」という新サービスで、ワインのアッサンブラージュを試す機会があった。専用ウェブサイトで、香りや味など特徴の異なる7つのキュヴェ(ワイン原酒)からアッサンブラージュに使用するものを5つ以内で選び、次にそれぞれのキュヴェの特徴がどれくらいの強さ・バランスで現れるかを意識しながらブレンド比率を設定。
最後にラベルを選び、注文ボタンをタップすれば希望の場所に届けてくれるという仕組みだ。