究極のものづくり?「自分の好み」を追求する

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ちなみにつくる際の大事なポイントは「創作するワインのテーマを考える」ということ。「ワインの味わい」「料理との相性」「飲むシーン」「飲むときの気分」をそれぞれイメージすることで、「世界にひとつだけの自分好みのワイン」が完成する。

ワクワク楽しめる工程のうえ、自分でつくるから感情移入もでき、後日の社員との試飲会もとても盛り上がった(味も、実のところ半信半疑だったのだが、飲んだら非常においしかった)。

そういえば、今夏の暑中見舞い用にオリジナルインクをつくったのだが(連載第48回に詳しい)、そのときも僕は「夏の水たまりに太陽が映り込み、そこに青葉が一枚ひらひらと落ちる」というイメージを想起し、ブルー系のインクを調合した。ものづくりに欠かせないのは、イメージを言葉にすること。それは無意識下にある自分の好みを顕在化させるために必須なのだろう。

いま、出来上がりを楽しみに待っているのが、自分好みの香りだ。先日、パーソナリティを務めるTOKYOFM「SUNDAY’SPOST」というラジオ番組に、香りの専門工場をもつLUZの代表・天田徹さんに来ていただいた。LUZでは「黒革」「力士」「ラムネ」「花見酒」「紙せっけん」「落雁」など、和をテーマにした香水が人気だという(ちなみに匂いを嗅ぐとそれぞれに納得できる香りがする)。

メイド・イン・ジャパンにこだわった唯一無二のオリジナル香水も制作しており、番組ノベルティとして文香をつくる相談をさせていただいた。僕のオーダーは「日曜日の夕焼けの香り」。家庭の夕餉の温もり、週末が終わる切なさ──そんなものが想起される文香ができたら、手紙を出すのがいっそう楽しくなることと思う。

「両方食べたい」のワガママが……

こうして振り返ってみると、「自分好み」をけっこう追求するタイプである。食べるのが好きなので、料理も実はいくつかある。

そのうちのひとつが、京都の「洋食おがた」のあるメニュー。夜遅くに寄ったとき、「カレーもナポリタンも両方食べたいのですが、そこまでお腹が空いてなくて。合わせ技にできないですか?」というワガママを言うと、つくってくださったシェフの緒方さんも「これはありかも」と思ってくれたのか、僕の許可をわざわざ取り、「カレーナポリタン薫堂風」と名づけてメニューに載せてくれた。

値段は2150円でちょっとお高めだが、両方のいいとこ取りなので、ぜひぜひお試しください。

吉田カバンとのコラボで、80周年記念モデル「ATM80」を開発し、限定販売したこともある。「ATM」は「熱海」の略で、熱海1泊旅行にちょうどいいボストンバッグをイメージした。原型は、昔の吉田カバンのカタログに掲載されていた「ご婚約前の美智子様が愛用されていたバッグ」。

白い革の非常にエレガントな製品で、この品のよさを踏襲し、男性用にアレンジしていただいた。Mac Book Airの11インチがぴったり底に入るのでビジネストリップにもちょうどよく、持っていると「どこのバッグですか?」と必ず訊かれる。

オーダーメイドのスーツは自分しか着られないが、自分好みでありながら他の方にも喜ばれるものを考えるというのは、究極のものづくりかもしれない。皆さんもまずは近所のレストランでトライしてみてはいかがでしょうか?


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都造形芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動や、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。

イラストレーション=サイトウユウスケ

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小山薫堂の妄想浪費

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