ビジネス

2019.11.12

ステマ疑惑で揺れるインフルエンサー、SNS。企業は、個人は、どうする?

連載「#インフルエンサーの研究」


「守り」のためのSNS活用

具体的な事例から考えよう。今年、ある大企業の元社員の妻がツイッターで、夫が育休取得直後に転勤を命じられ退職に追い込まれたと告発し、企業が非難を浴びた。育休取得と処遇をめぐる話題については、以前からSNS上で議論があった。企業側がこの点についてSNSから生の声を収集、分析する「ソーシャルリスニング」を行っていたら、夫の処遇は果たしてどうなっていただろうか。

人事労務管理の「守りの目線」で、SNS上の空気感をウォッチする必要性を感じる例である。

マーケティングでも、「守り」としてのSNSは欠かせない。企業の渾身の広告企画が炎上を招いてしまうことがある。多くは市民や消費者の目線、ダイバーシティなどの観点から、配慮に欠ける表現が問題視されるケースだ。普段からSNS上の生の声に触れておくことで、炎上リスクはある程度抑えられるのではないだろうか。

SNSは世界とつながっている。SNS経由で新たなグローバルスタンダードが浸透することも多い。ジェンダーや性的少数者をめぐる議論は海外から火がつき、国内でも議論が生まれた。「#MeToo」は世界で被害者が立ち上がる契機となった。

マーケティング、採用、労務管理……。変化の激しい現代、企業がSNSから目を背け、社員にその活用を禁止すること自体が、いまやリスクといえるのではないだろうか。

「インフルエンサー採用」の衝撃

SNSには「守り」にとどまらず、「攻め」においても効果的に打って出るためのさまざまなヒントがある。

近年、インフルエンサー的な発信力や表現力に特別な価値を見いだし、その力を自社に取り込もうとする企業が出てきた。「インフルエンサー採用」の導入である。社員のSNS活用はリスクではなく、いまや武器なのだ。企業と個人の新たな関係性を象徴する取り組みともいえる。

インフルエンサーマーケティング事業などを手がけるサイバー・バズでは、新卒採用で、総合職としてインフルエンサー採用をおこなっている。SNSやブログで、指定のハッシュタグをつけた1投稿に500「いいね」を獲得すれば即最終面接に進むことができる。300「いいね」獲得で書類選考をスキップできる。ディレクター、プロデューサー、事業責任者など、経験やスキルに応じてポジションを用意する。

さらに学ぶところが大きいのは、「メッセージのつくり方」である。SNSでバズを生むメッセージには、常に流れゆくタイムライン上で目を留めてもらえるようにと、発信者の思いや工夫が詰まっている。

SNSには時代を読むコンテキストが詰まっている

「保育園落ちた日本死ね」のブログのタイトルが、もし「みんなが保育園に入れる日本にしよう」だったら、果たして爆発的な議論は起きただろうか。

2018年2月、「日本は、義理チョコをやめよう。」と呼びかけ、バレンタインデーは思いを伝える日にしようと訴えたゴディバの新聞広告のメッセージが、「本当に好きな人にチョコをあげよう」だったら、女性たちからあれほどの共感を得られただろうか。

人の心に爪痕を残す、SNSの空気感を熟知したうえでのコンテキスト(文脈)である。心の機微に寄り添うストーリーを導き出すことで、消費者との距離はぐっと縮まるはずだ。

テクノロジーやデータが牽引する現代のビジネスシーンだが、一方で企業と消費者、組織と個人の関係性やあり方が根本的に見直され、組織にも個人にも時代のコンテキストをいかに読み、意識的にコントロールできるかが問われている。本企画で編集部が伝えたかったのは、企業も個人も攻守両面を見据えて、SNSという急流にまずは飛び込んでみませんか、ということなのである。

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文=林亜季

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