東京国際映画祭、過去と未来に思いを馳せる最高賞と観客賞の2作品



「列車旅行のすすめ」(C)2019 TIFF

賞からは漏れたが、入れ子構造でメタフィクション的に物語が展開していく「列車旅行のすすめ」(「Advantages of Travelling by Train」アリツ・モレノ監督)も、「動物だけが知っている」と同じく、ストーリーテリングに妙味があり、新しい映画表現の可能性を感じさせてくれた。

かたや映画の原点を思い出させる「わたしの叔父さん」、かたや映画での物語作法をとことんまで追い求めた未来形の「動物だけが知っている」。いわば対極にある2作品がグランプリと観客賞を分けあったとも言える。

さて、今回の東京国際映画祭では、まもなくネットフリックスで配信される予定のマーティン・スコセッシ監督の「アイリッシュマン」やノア・バームバック監督の「マリッジ・ストーリー」も特別招待作品として上映された。前者はロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演、後者はスカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーが夫婦役を演じている話題の作品だ。

映像をスクリーンに投影することで、一度に多くの人が一緒に観ることを可能にしたシネマトグラフ。これを発明したことで「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟は、配信の時代に入り、劇場から再び個人へと戻っていこうとしている映画の現在を、果たしてどう思っていることだろう。

「第32回東京国際映画祭」コンペティション部門受賞結果

東京グランプリ:「わたしの叔父さん」
審査員特別賞:「アトランティス」
最優秀監督賞:サイード・ルスタイ(「ジャスト 6.5」)
最優秀女優賞:ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ(「動物だけが知っている」)
最優秀男優賞:ナヴィド・モハマドザデー(「ジャスト 6.5」)
最優秀芸術貢献賞:「チャクトゥとサルラ」
最優秀脚本賞:「喜劇 愛妻物語」
観客賞:「動物だけが知っている」

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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