死ぬまで舞台に立ち続けたい。三途の川を渡った男の「腎移植」という選択

「電撃ネットワーク」の南部虎弾

過激パフォーマンスグループ「電撃ネットワーク」のリーダーで、2019年5月28日に妻から腎臓を一つ分けてもらう腎臓移植手術を受けた南部虎弾(68)が9月、東京新宿で「南部虎弾完全復活大感謝祭」を開催した。(記事前編はこちら

腎移植を経て4カ月の南部氏は、おでこに缶ビールをピタリとくっつけて客にビールを振る舞う芸を披露。 

「南部ちゃん、おかえり!」「手術成功おめでとう!」

会場のボルテージは最高潮に。

一際大きな声援を送るのは、50代~60代のバブル世代だ。電撃ネットワークと共に人生を歩んできた彼らは、「俺たちまだ終われない。ここからだろ?」と、自らを鼓舞しているようにも見えた。

南部氏は、2型糖尿病による腎障害を乗り越え、再びステージに戻ってきた。その舞台裏には、「夫婦間腎移植」という医療がある。南部氏の体内には、実は妻の腎臓と合わせて3つの腎臓がある。

足が腐ってる、なんだそれ?

はじめて体の異変を感じたのは、還暦を迎えた2011年のことだった。左足の甲が変色し、膝から下のむくみもひどい。「過激パフォーマー」の南部氏にとって、ケガは日常茶飯事だったが、今回ばかりはマズいことになったかもしれない……嫌な予感がした。

慌てて知人の病院に駆け込むと、「これ、ケガじゃない。内臓の病気だね」。医師はそう言い、すぐに東京女子医大病院・糖尿病センターを訪ねるよう紹介状を書いてくれた。

出迎えてくれたのは、糖尿病フットケア外来の権威、新城孝道医師(現在は個人医院を経営)。新城医師は、異変のある足を「壊疽」(えそ:組織が腐った状態)と診断し、その日のうちに手術を行なったという。処置が遅ければ、足を切断される可能性もあったといい、事態は深刻だった。

診断名は「2型糖尿病」。

よく耳にする病名ではある。が、「まさか自分が」と、事の重大さを理解できなかった。肥満体型ではないし、自覚症状もなかったからだ。

ただ、糖尿病を発症してしまった原因については察しがついていた。2型糖尿病は遺伝的な要因に加え、飲み過ぎ・食べ過ぎなどの生活習慣も影響する。南部氏は、20年間におよび、体に負荷をかける食生活を続けていた。

朝ラーメンを続けた結果、糖尿病の診断がくだる

南部氏がリーダーを務める電撃ネットワークは、90年代、TOKYO SHOCK BOYSの名で、世界でブレイクした。「サソリ食い」「ドライアイスのむさぼり食い」「蛍光灯のケツ割り」など、過激なパフォーマンスで人気に火がつき、94年のイギリス公演を皮切りに、オーストラリア、スコットランド、ヨーロッパ、ニューヨークから出演依頼が殺到。

観客動員数は2万、4万、6万人と右肩上がりに伸び、チケットは即日「SOLD OUT」だった。人気上昇と共に、南部氏の生活も派手になっていった。毎晩、仕事関係者と朝まで飲み明かしては、大好きなラーメンでシメる。そんな生活を20年も続けていた。

その時、妻の由紀さんは、複雑な思いを抱えていた。

前編で触れているように、2人は電撃ネットワーク結成時に結婚している。原点は、風呂なし鍵なしの6畳アパート。下積み時代を支え続けた妻としては、夫の飛躍をうれしく思う反面、「食生活を改めてほしい。体壊しちゃうよ」と気が気ではなかった。しかし、妻の思いが、南部氏に届くことはなかった。

「当時の僕は、カミさんの話を聞こうなんて余裕がありませんでした。常に仕事、仕事、でしたから」
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文=もろずみはるか 写真=曽川拓哉

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