ポーゼンは、かつて比較されることを嫌ったマイケル・コースと同じ戦略を取り始めた。「ZAC ザック ポーゼン」を立ち上げ、手頃な価格のハンドバッグやアクセサリーの販売にも事業を拡大したほか、2010年には米小売大手ターゲットと提携。限定版のアイテムを発売した。
さらに、ブライダルブランド「デヴィッド・ブライダル」の協力を得て、「トゥルーリー・ザック・ポーゼン」でブライダル市場に進出。アイウェアのケンマークともライセンス契約を結んだ。コスメブランドM.A.C.との提携によって化粧品市場への進出を試み、そして失敗。業績不振が続く百貨店サックス・フィフス・アベニュー向けに始めた「Zスポーク」も、運営を終了した。
ポーゼンは2014年、ブルックスブラザーズのウィメンズラインのクリエィティブ・ディレクターに就任。また、デルタ航空が2018年に導入した新しいユニフォームやワイン「エコ・ドマーニ ピノ・グリージョ」の限定版ラベルのデザイン、料理本も手掛けた──多忙を極めたポーゼンだが、それでもユカイパの出資者たちを喜ばせることはできなかった。
遺された道は─?
仕事が減ったポーゼンは今後、2018年に創業200周年を迎えた米高級ブランド、ブルックスブラザーズの仕事に専念することになるだろう。ブルックスブラザーズの経営に携わるのは、同社を買収したイタリアの実業家クラウディオ・デル・ヴェッキオ。その父レオナルドは、眼鏡の世界最大手ルクソティカの創業者だ。
デル・ヴェッキオが持つ高級品に対する伝統的な視点と、ポーゼンのデザインの能力と創造力があれば、ブルックスブラザーズとザック・ポーゼンのどちらにも、奇跡が起きるかもしれない。
ブルックスブラザーズは、ハリウッドのきらびやかさとはかけ離れている。だが、ファッション界が待ち望み、ブルックスブラザーズが必要とする新たな方向へと進んでいくためにポーゼンがそのスキルを磨き、伸ばしていくための"ホーム"にはなり得るだろう。