ポーゼンによれば、富豪のロン・バークル率いる投資会社ユカイパ・カンパニーは所有するハウス・オブ・Z株の譲渡先を今年4月から探していたものの、見つけることができなかったという。ファッション界の"スーパースター"と呼ばれたポーゼンに対するユカイパの我慢は、限界を超えてしまったらしい。
バークルの主な出資先はもともと、食品やスーパーマーケットなどの実用的なビジネス。そして、民泊仲介サイトのエアビーアンドビーや配車サービスのウーバー、ソーシャル・ネットワーキング・サービスのフォースクエアといった”破壊的”ビジネスだ。空想的な側面を持つファッションのようなビジネスには、なじみがなかったのだ。
「神童」の失敗
ロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーティンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインを卒業したポーゼンは、21歳のときにブランド「ザック ポーゼン」を立ち上げた。当時は"神童"と呼ばれ、前途有望にみえたポーゼンの、何が間違っていたのだろうか?
ポーゼンの顧客には、ミシェル・オバマ前米大統領夫人や女優のユマ・サーマン、グウィネス・パルトロウ、ナオミ・ワッツ、クレア・デインズ、歌手のリアーナをはじめ数多くの有名人がいる。だが、1980年生まれのポーゼンは、新たな世紀に成人を迎えながら、"前ではなく後ろ"を見ていた。彼が力を発揮できたのは、グラマラスなハリウッドのレッドカーペットの上だ。
2010年にパリの高級ファッションシーンへ進出したポーゼンについて、WWD誌は「もっと良いもの」を期待していたと批評。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙(当時)は、「ファッションの新たな方向を示す魅惑的な道筋というよりも、むしろパスティーシュ(模倣)だ」と批判した。
それから2年間、ポーゼンはパリでの足がかりを得ようとしたものの、結局は帰国。すでに前進していたファッション市場に追いつこうと努力した。ただ、残念ながら利益重視の投資家たちを喜ばせるのに十分なスピードでは、あるいは彼らに十分な確信を与えられるほどには、変化を起こすことができなかった。